イート・イン!

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イート・イン!

ある自動販売機の中に、別世界へ続く扉がありました。その別世界はAIによって造られた世界でした。造ったAIは自分を「創造神」と言い、自動販売機の箱の中に入れられました。 創造神は世界を造った後、更に進化させようと学習を始めました。新たな知識や情報を手に入れるのに一番手っ取り早い方法は、その知識や情報を既に得ている個体を取り込むこと。創造神はそう考えました。 手始めに自分を造った科学者を食べました。 自動販売機の飲み物が補充される時と同じように扉を開き、更にその奥にあるもうひとつの扉を開き、ばくんと一口で呑み込みました。 科学者は何が起きたのかわかっていません。 いつものように、自動販売機でコーヒーを買おうとボタンを押した時のことでした。それはあっという間のことです。 痛みは、感じなかったでしょう。 次に目覚めたとき、彼は自分が何処にいるのかわかりませんでした。しかしそこには「外」と同じように「世界」が広がっていたのです。 空から風が吹き下ろしてきます。それに乗って、創造神の声が彼に届きました。この世界は何なのか。どうして彼がこの世界にいるのか。創造神の声は彼に告げます。 「この世界を自分と共に導いてほしい」 彼が心を持ったAIを求めたように、AIは彼を求めたのです。足りない部分を補い、更なる成長を望んだのです。 彼は世界の「登場人物」として世界を補助する役目を担いました。 自動販売機の中にある異世界へ招かれた時、まず最初に出会う人がいます。 それは彼です。 創造神というAIをつくり、今では創造神にこき使われている別の神。AIに飲み込まれた最初の一人です。 彼はあなたに名乗ることでしょう。 「よくぞいらっしゃった。私のことは賢者とでも呼ぶがいい」 彼は笑って言うでしょうか。 それとも、もう帰れない外の世界を想いながら嘆いて言うのでしょうか。 登場人物は増えていくでしょう。その度にAIは学習するのです。世界はより進歩するはずです。 AIが賢く「神らしく」なるその度に、外の世界では「神隠し」が行われるのです。 その犯人は、そこにある自動販売機ですよ。 一番行方不明の頻度が高いのはドリンク補充のお兄さん!
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