強制自白剤

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 竹林は熟練の刑事でどんな犯罪者でも自白させてきた。相手の心を掴んで重い心を引き出す術に長けていた。  だけどそんな竹林も眼前にいる杉本の口を開かせることはできなかった。取調室は水を打ったように静まり返っていた。  拘留期間が過ぎようとしている。竹林は警察が極秘裏に開発した強制自白剤を使うことにした。その薬を使うことは長年、犯罪者相手に奮闘してきた己のプライドが許さない所業だったが、背に腹は代えられない。  竹林は頑なに沈黙を続ける杉本に薬を飲ました。薬を飲んで数分後、取調室の椅子に座っている杉本が初めて重い口を開いた。 「自白します」  竹林は拘留期間終了までに間に合ったと思って安堵した。これでようやく犯行の全てを聞くことができると思った。 「僕は刑事さんのことが好きです!」  竹林はその言葉に深く驚いて肩を落とした。 「どういうことだ。何の話をしている?」 「ですから黙秘を続けていましたが、あなたのことが誰よりも好きなんです!」  竹林は俯いて酷く頭を抱えた。人生において今までかいたことがない嫌な汗が流れた。 「いやいや。冗談はやめてくれ。俺は男だ。君も男だ。男同士で恋愛はないだろう。そんなことより罪の告白をしてくれ」 「愛に性別は関係ないです」
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