椎名くんは受け取らない

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「あ」  突然、何かに気がついたような顔つきで、先日まではただの友達だと思っていた椎名くんが呟いた。  先日までは、ね。つまり今は違うということだ。  私たちはお付き合いをしている。  多分。  お付き合いの定義がいまだによく分かっていないけど、とりあえずたくさんデートはしている。  今日もそんな感じでファミレスに来ている。  いや、これいつもの放課後じゃないか。どこがデートよ。  疑問を感じてはいるけど、口に出したら負けのような気がしている。  あまりにも告白の前後と変わらない日常だから、クラスメイトの誰も私たちが付き合っていることに気づいていないくらいだ。  友達の佐藤さんは「それでいいんじゃない?」とニコニコしながら言うし、それでいいのかもしれない。    で、椎名くんが今、何に気づいたのかというと? 「あそこで迷っている配膳ロボ、絶対俺のアイス持ってるよな?」 「ああ、抹茶とイチゴが乗ってるやつね。多分そうだよね」  広いファミレスで忙しなく働いている従業員にまぎれて、ウロウロしている猫の顔のついた配膳ロボット。どうやら、道に迷っているようだ。誰かにぶつかって方向を変えられちゃったりしたのかな? それとも、何らかのプログラムミス?   「さっきから見ているんだけど、全然こっちに来てくれない」 「店員さん呼ぶ?」 「いや、そんなことをしたら、店員の代わりに配膳しようと必死で頑張っているあいつのメンツはどうなるんだ」  あいつのメンツってなに? ただのロボだろ。
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