パノプティコン

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 世紀の大発見をしてしまった。  私は早朝、近所の神社に妹の受験合格を祈願しに行った。絵馬に油性マジックで願い事を書いて吊るす。そして帰ろうかと思った時、薄緑色のネットフェンスの一部がちぎれているのを見つけた。  普段から周りに細心の注意を払って生きている訳では無い。ネットフェンスの穴は人一人がやっと通れるかという程小さく、家族から鈍感と評されるいつもの私なら気付かなかったのだろう。  だから私がそれに気付けたのは視覚情報のせいでは無い。変な匂いがしたのだ。油と金属臭の匂いが、絵馬を括り付ける看板の後ろから微かに。 「何、この穴……?」  私は違和感を持ちながら、その穴から目を離す事が出来なかった。まるで誘蛾灯に吸い寄せられる虫の様に、この世のあらゆる謎を愛する私にとって酷く魅力的に見えてしまったのだ。  躊躇いながら、足は勤勉に動いた。  穴を通り抜けて木々の生い茂る獣道を歩いていく。雑草が半袖のズボンを着ていた私の素足を撫でる。肌が少し痒くなり、立ち止まっては手で付着したひっつき虫を丁寧に取り除く。  四分ほど歩いて、その場所に着いた。  大木の周りに艶やかに咲いているシロツメクサ。涼風が夏の存在を和らげて汗を引かせる。 「……ロボット?」  大木に背を預けた、人型ロボットの様な物体。  全身は白く、胸の中心が強く発光している。至る所に損傷があり、灰色の煙がたなびいている。 「こんにちは」 「……喋った?」  突然それは声を発し、挨拶してきた。  私の脳味噌が夏のせいで茹で上がって幻覚でも見せて来ているのでは無いかと勘繰ったが、頬を抓ってもビンタしても変わらずそれはあった。 「すみません。無言になられると位置の把握に手間取ります。視覚情報が遮断されていまして……」 「……あなたは、何?」  ああ、と何気なく呟いたそれは恐らく私を警戒させない為だろう、優しく嫋やかな声で自己紹介を始めた。 「私は自立二足歩行型AIの『パノプティコン』と申します。以後お見知り置きを」
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