薬師さん!これってどうなってるんですか?

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俺はケビン。この街では評判の薬師である。 小さな店内に毎日たくさんの客がやってくる。そして俺は巷では『変人薬師』と言われ続けているのだ。 「なぜだ!」 今日も俺は店のカウンターを叩き嘆いている。 そもそも俺は色々あって薬事ギルドには入っていない。本当に色々あったからな。 だから安くは提供できても信用に欠けるという事かもしれない。 だからか俺の店には、今日も妄想をぶちまけてくるお客が後を絶たない。 「おいケビン!昨日お前の回復薬でふっさふさの尻尾が生えたぞ!まあ手触りは良くて今日の朝には消えちまったけど……良ければ同じの何個か売ってくれんか?」 「何言ってんだよダイキのおやじ。あんたに渡したのもいつもの回復薬だよ!尻尾なんて生えるわけねーだろ!妖狐に化かされたかなんかじゃねーか?」 足をバンバンと踏みしめながら「ちげーよ!」と騒ぎ出したダイキという常連の冒険者に、さっさと出てけと手で合図をする。 「ねーケビ~ン。さっき回復薬飲んだんだけどぉ~。お尻がさ、こんなに大きくなっちゃったのぉ~。どうしてくれるのぉ~?戻るよね?戻らなかったらあんた殺すからね?」 「お、おお。あんた食べすぎじゃねーか?じゃなかった、俺の薬でそうなったんだろ?じゃあ明日には治るんじゃねーかな?あと少し回復しすぎちまったみてーだから少し走れ。なっ?ちょっとこの辺を走って来いよ。美容にもいいからな」 ホルスタイン系獣人女にのんびりとした殺気を向けられ俺は、冷や汗をかきながら走れと自分もその場で走るジェスチャーをしながら、引きつった笑顔でその女性冒険者を外まで送り出した。 「なんだよ!自分の過食を俺に擦り付けてくんなってーんだ!」 そんなバカな客が多いから本当に毎日が大変だが、俺は今日も精いっぱい安くて効果の高い回復薬を作り続けるのだ。 「今に見てろよ俺だって!凄い薬師だ!っていつかみんなに拝ませてやるよ!」 丁度客足の途切れた店内で一人叫ぶ。 「おお!さすがケビン。志だけは一人前だな!」 「な、なんだ盗み聞きはいかんぞウルフ」 狼系獣人の冒険者ウルフが店内へと入ってくる。こいつは『獰猛なる狼』という冒険者パーティのリーダーをしている。 「丁度俺が店に入ってくる時に叫んでたのはケビンだろ。変な言いがかりつけんな!」 「そっすかー」 適当な返事をしていると、後ろからウルフの相棒の猫系獣人さんも店内へと入ってきた。 「よう!ニャットちゃんお元気ー?」 俺の言葉にいつもとは違い顔を赤らめコクコクと頷く。どうしたんだろう俺に恋でもしちゃったかな? 「でよ!今日来たのはお前の作った回復薬なんだが……まあ変な効果が付いているのは何時ものことなんだがな……さすがにこれは笑えねえ…… いや、笑っちまったから死にかけたんだよ!おまえいい加減にしろ。ちょっとしたことが俺たち冒険者には命取りになるんだぞ!」 「な、なんだよこえーな。何があったってんだ。回復できなかったのか?不良品だったか?そんなことはねーとは思うが……それならすまんかったとは思う」 ウルフがため息をつく。 「薬は効いたよ。ちゃんといつものようにな……だがな、飲んだニャットがな……おい、ニャット」 ウルフに声を掛けられたニャットちゃんは首を左右に振って何やら断っている。 「どうしたニャットちゃん。何かあったら言ってくれ」 『い、いや……うぅぅ』 あら可愛い声!ってニャットちゃんこんな声ちゃうね? 「聞こえただろ?ニャットの可愛い声がこんなに高くなっちまったから……ドラゴン2匹と対峙している時にこうなってみろ……危うく噴き出して気を抜いた拍子に、ブレスで焼き殺されるところだったんだぞ……」 『ちがう!ケビンさんは悪、くな、い……』 「あ、あー変なガス地帯通ったとか……じゃない、かな?」 「俺たちがそんなへますると?」 向けられた殺気に冷や汗をかきながら頬をかく。 「ま、まあたまにそういった失敗作もあるってことで……多分1日たてば治るかなって、思うよ?」 俺は冷や汗が留まることをしらぬ体に鞭を討ち、新しい回復薬を10個ほど出し「サービスです」とニャットちゃんに提供した。 コクコクと頭を動かしながら受け取って帰るニャットちゃん。付き添うウルフは店を出る際にまた睨まれてしまった。 まったく……なんて日だ!だいたいあんな声になる成分なんて一ミリも入ってねーよ!そう思ってはいるが、なんかの拍子に何かがどうかしてそんな効果も出ちまったのかな?と思い天井を向きため息をついていた。 「兄貴~なに嘆いてるの~」 「お、おお。オックスのぼうずじゃねーか、なーに。人生の理不尽さを感じてただけよ」 オックスは「ほぉー」と口にして俺をキラキラした瞳で眺めている。 「なーそれよりあの薬くれよー。もう我慢できねーんだよー!もうあれなしでは生きていけねーんだよ!なー兄貴が俺をこんな体にしちゃったんだぞー!責任とってくれよー!」 「えーい!人聞きの悪いことを言うな!まるで俺が違法薬物を無理やり飲ませたみてーじゃねーか!」 頬を赤らめ腰をくねくねさせながら、変なことを言ってくるオックスにしっかりと反論する。 「でもよー俺、あの猫耳が忘れられねーんだよー。頼むよー。ニーナに兄貴の薬何度も飲ませてるけど、全然生えてくれねーんだよー」 「当たり前だろ!だいたいお前がこの前、猫耳生えたーって騒いでたけど、ありゃー俺の薬じゃなくてどっかで変な罠でも踏んだんだろ!」 俺の言葉に「でもー」「だってー」と繰り返すオックス。 なんでも自分の頭に生えた猫耳にほれ込んで、恋人のニーナに生やそうと俺の回復薬を、ちょっと時間をおいては与えているとか…… 「兄貴の薬は毎回変な効果が出るんだけどよー中々目当てのはでねーんだよ」 「なんだよ毎回変なのって……お前、やっぱりどっかで変な薬やってんじゃねーか?辞めといたほうがいいぞ?」 「ちげーよ!変な薬ならここので十分だ!兄貴の薬飲むごとにニーナの声が太くなったり、お〇りの毛が生えたり、おっ〇いがデカくなったり……まあ、あれはあれで良かったな……」 「おい!変な妄想してんじゃねー!」 急に言葉を止めニヤニヤしだしたオックスのケツを蹴って店から追い出した俺は、やっと誰もいなくなった店内で肘を突きため息をつきまくる、 大体俺は薬師学校で習った通りのところに、オリジナルで回復効果の高いものを厳選して、裏庭で自生させて格安で作ることに成功しただけなんだよ。 基本成分はそこらの回復薬と変わらないはずなんだよ……それなのに連日こんな難癖つけられるとは…… 「やっぱり立地が悪かったかなー」 俺はあまり資金面で余裕がなかったので街はずれの小さな店舗を借りることしかできなかった。 だからこんな変な客しかこないのかもな…… 今なら貯金もたっぷりあるが、今更街中に移転する気はない。 「ま、しかたねーか……」 俺は午前の営業を終わらせ、店じまいをすると明日のための調合を始めた。 「よっし、今日は……これか!」 唯一の趣味の魔道ラジオのスイッチを入れ、大好きな道化師チャンネルに合わせると鼻歌交じりに調合を始める。 俺は調合しならも、こういった漫才など笑える話を聞きながら、大笑いをするのが昔から大好きだ。もちろん調合にも手を抜いたことは一度たりともない。 そもそも何千回と繰り返した作業に誤りなど生じるはずもない。 そして俺は、腹を片手で抑えながら材料に魔力を練り込ませ、調合を終わらせた。 「さて、後は晩飯食ってひとっ風呂浴びて寝るかな?」 明日への準備を終えた俺は、まったりとした時間の中、眠りについた。 ケビンの調合する回復薬に様々な副作用が生じるのは、この調合時の雑念が魔力に篭るから、という原因に気づくのは…… まだまだ遠い未来の話である……
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