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空白駅
一月中旬、降雪も勢いを落とし、冬休みが明けた。
ほしぞら幼稚園では毎年三月第三週の土曜日に卒園式が行われる。
今年は二十日に卒園式が行われることになった。
年長組はあと二カ月で幼稚園児という身分を捨てることになる。
「・・・」
幼稚園児の冬休み明けというのは再会を楽しむというより、新鮮さが強い。
二月に光がインフルエンザにかかり彼女は二週間幼稚園を休んだ。正樹はその間しゅんたろうや自分とは合わない友達と過ごした。
光がいなくなり一週間を過ぎると、正樹は光のことを忘れ気味になってしまった。
大人ならありえない。だが幼いときの脳は依存しない仕組みになっている。それは生き残るためには最適だが、今後大人になった時には案外損害となったりもする。
光が幼稚園に戻ってもしばらくあまり話さなかった。人見知りではない、嫌いになったわけでもない、ただ正樹と光の無意識の中に「話す気になればいつでもできる」が存在していた。無数にあるメニューからたまたまお互いを選ばなかっただけの話だ。
二週間の間に一層お互いが特別ではなくなっていた。
そうもしている内に卒園まで二週間となった。
「はあ」
その頃になると横山先生の園児を見る目が変わる。あと二週間・・・あと二週間・・・
「ひかりはさ、どこの小学校行くの」
休み時間、園庭を一人で歩いていた正樹は光になんとなく訊いた。
「恵比島小学校だよ」
光は園庭に落ちていた葉っぱを細かくちぎりながら言った。
「え!僕沼田小学校」
正樹は驚きも悲しみもない言葉を返した。
「そっか」
光の声には微量だが悲しみが混じっていた。
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