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横山先生は園児を席につかせた。これから保護者への説明会があることから席は手を繋いだ列の通りになり、光は正樹の右隣になった。
正樹は繋いでいた手をそっと放した。
「まさきん~うんち」
つまり正樹の左隣はしゅんたろうになった。正樹にとっては案外都合がよかったのかもしれない。
正樹はなんともいえない顔で乗り切った。
「ねえひかりちゃんのお母さんどこ」
滅多に自分から話しかけない正樹だが、なぜか光が相手だとむしろもっと喋りたいという気持ちになれた。
正樹が光に抱いている思いはこの歳でしか持つことができないものなのかもしれない。別に‘‘好き‘‘とかそういうものでない。
「来ないしょ」
彼女の返しはあっさりしていた。
「なんで」
正樹は純粋に理由を尋ねた。
「夜の人だもん」
光は正樹の目を見て言った。
「かっこいいね」
正樹には意味がわからなかったが、夜と人という単語はなんとなく戦いに関係したものだと勝手に解釈した。
「それじゃあ保護者の皆さんはお子さんの席の隣についてください」
横山先生はうるさくない大声で呼びかけた。
「まーくん緊張してるの?」
伊藤麻由花ー正樹の母だ、彼女は一人息子の正樹の背中を軽く叩いた。
「いや、あん、いや」
正樹の人見知りが始まった。
人見知りというのは厄介なものだ。誰に頼んだわけでもなく襲いかかってくる。
横山先生は周りを見渡してた、そしてすぐ、光の親が来てないことに気付いたらしい。横山先生は少し周りを見て、光に訊くか訊かないか迷っていた。
ー来る可能性があるなら訊く、ないなら訊かないー
一見無意味に見える人間の不思議なところだ。
「ごめんさ~い、少し待っててくださいね」
横山先生は教室を出て、すぐ隣にある職員室へと向かった。おそらく光の親に電話でもするのだろう。
今回の説明会は皆に出席の確認をとっていた。来れない場合は必ず他の保護者が来るという決まりだった。
「ねえ、夜の人ってどんな人」
正樹は純粋に訊いた。
「時間を置いたぶどうの匂いがする人」
光は酒の匂いを例えた。
いい匂い?
落ち着くかも
どこで働いてるの?
白い人がいるところ。
麻由花ひっそり、いや堂々と彼らの会話を聞いていた。
麻由花は光の口調の異変に気付いていた。
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