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(子供じゃない)
なんて一瞬思ったりもした。
「光ちゃんっていうんだ」
麻由花は優しく光に話しかけた。光は米一粒分くらいの小さな頷きを見せた。
都合よく窓から入ってきた少し冷たい風は麻由花をさらに安心させた。
「は~い!お待たせしました~!それじゃあ私はさくら組の担任をします!よこやまめぐみと言いま~す」
子供に寄り添うようにハイテンションで名札を見せながら横山先生は二十四人いる保護者と二十五人の園児に向けて自己紹介をした。
園児たちははしゃぐ子もいれば、案外静かな子もいた。
「うひゃひゃひゃひゃ!めぐみちゃん♡」
しゅんたろうは少しおかしいらしい。
「ゴラア」
彼の母は恥ずかしそうに怒りの感情を見せた。
「あはは」
横山先生は全員に目を向けながら一人のミスの対応をさっと済ませた。
幼稚園時代は本当に大変な時期だ。いつも予想外、想定外のことが起きる。それでも園児にかかわる多くの人は平和に時を過ごせるだろう。
説明会の九割は園児にはほぼ縁がないものだった。
集金のこと、保険のこと、夏の運動会のこと、災害対応のこと、教育方針・・・
「光ちゃん、ママにこれ渡せるかな?」
横山先生は光の頭を親しく撫でながら幼稚園関係の必要書類を光に預けた。
「うん」
光からでたのは頷きがメインな小さな返事だった。
ほしぞら幼稚園、沼田町でも数少ない幼稚園の為、登園する園児はかなり広範囲から集まっていた。
そのため幼稚園バスを利用する人は多く、自転車で送り迎えなんてお母さんは稀だった。
「ひかりはどうやって帰るの」
説明会は午前中で終わり、集金や保険の事が記された書類を受け取った人は順次帰宅となった。正樹は家が幼稚園から近いため、麻由花の自転車に乗って帰ることにした。
「歩きだけど」
親が来ていない光は歩くしかなかった。
「家近いんだ」
正樹は彼女の前では人見知りではなくなり、グイグイくる。
光は小さく頷き、その頷きは”またね”ともとれた。
「いい友達ができたじゃん」
麻由花は帰りの自転車で少し冷える畑道を走りながら正樹に言った。
「うん、そうね」
正樹は一歩大人になっていた。
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