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『今日、散歩していたらとても綺麗な花を見つけたんだ。写真を撮ったから送るね』
メッセージに添付されていたのは白い花の写真だった。
もっともこれは厳密には写真ではない。AIが作成した極めてリアルな絵だ。
しかしそこを指摘するほど僕は無粋ではない。実際、絵か写真かなんて分からないほど、それは写実的な花だった。制服を脱ぐことも忘れてすぐにお礼のメッセージを送信する。するとすぐに返信が来た。
『ケンくんは、今日はどんな日だった?』
背中に得体の知れないむずがゆさを感じて僕は思わず身をくねらせた。この奇妙な感覚はなんだろうと考えて、すぐにファーストネームで呼ばれたからだと思いあたった。
生まれてこのかた家族以外の人間にファーストネームで呼ばれた記憶がない。学校ではもっぱら名字で『九条くん』と呼ばれてる。
だからいくら文字越しとはいえ、ファーストネームで呼ばれるとなんとなく照れ臭い気分になってしまう。
ハンドルネームをファーストネームにしたのは失敗だったかな、などと考えながら今日のできごとを振り返った。──そしてため息を吐く。
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