貴女と僕の傷跡2

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私は深夜だというのに叫ばずにはいられなかった。 なんという偶然。 なんという縁。 私の車の助手席に乗り込んだ、私の右腕であるギタリストからの言葉を聞き、私は腹の底から叫んだ。 「最近彼女できたんだよ。しかも遠距離恋愛。ホームページで知り合ったんだよ。」 「なにぃ!?本当かよ!?マジで!?」 奴の彼女は大阪らしい。今週末に会いにいくそうだ。 「マジだよ。俺から告ったんだけどね。」 「そ、そうなんだ…。私書箱…か…?」 「いや、違うよ。普通に掲示板に書き込みしてたよ。カナって名前で。まぁ本名もカナっつうんだけど。」 「カナちゃんね…へぇ〜凄いな。」 私は一通り驚き終えると、車を発進させた。 「実はな、俺もなんだ。」 私は小声でギタリストに言った。 「何が?」 「いや、だから俺も彼女ができたんだよ。」 「ほぉん、そりゃおめでと。」 ギタリストは別に特別な事ではないだろうといった口ぶりだ。 「でな?遠距離恋愛。で、バンド用ホームページの私書箱に投稿してきたのがきっかけだよ。」 「なにぃ!?本当かよ!?マジで!?」 ギタリストは一字一句私と同じセリフを吐いた。 「そうかぁ!!それでその娘に送る為のプリクラ撮ろうってわけだな?」 「おぉ…察しがいいな。その通り。」 「そうかそうか…。ちょうどいいや。俺もカナに送るの撮ろうっと。」 「あぁ、そうしなよ。俺写ってていいのか?」 「ん?別に?構わないよ。お前こそいいの?俺写ってて。」 「構わんよ。さ、着いたぞ。」 私は駐車場に車を停めて、ギタリストに車から降りるように促した。 男二人、プリクラ撮影の旅。 正直に言うと、めっちゃ楽しかった☆ 比較的むさ苦しい部類に入る野郎二人が、お互い彼女ができたという浮ついた心と、同じ遠距離恋愛という妙な仲間意識でそれはそれは、大変…大変、誠に大変、キャピついていた記憶があります。 「こうした方がかっこよく見えね?」 「アホぅ…そんなん気持ち悪いだろうが。彼女ドン引きだよ、たぶん…。」 「いやバカ、違ぇよ。この角度がかっこよく見えるんだって。彼女に送るんだから思い切りカッコつけねぇとさ。」 「そ、そうか?こ、こんな感じ?」 「そうそう!いいじゃん?」 ↑こんな感じであのプリクラ機の狭いカーテンの中でイチャイチャ、キャッキャッ。 多分この時、人生で一番キャピついていたんじゃないでしょうかね。 うん、楽しかったよ…。 思えば一番楽しかったかな。 心が、気持ちが満たされるという意味が理解できたのもこの時かな。 自分が何かを渇望している時に、その対象が手に入るというのは本当に幸せなのだ。 別にこの時、彼女という存在を渇望していたわけではない。 私を知ろうとしてくれて、私の苦しみを理解しようとしてくれて、そして私を、私の存在を認めてくれようとしてくれる人がここしかないというタイミングで現れてくれたのだ。 何かを手に入れようとしている時が一番楽しいと言うが、私はそうは思わない。 手に入れなければ楽しくないのだ。 それを教えてくれたのも美結だった。 君はまさに私にとっての救世主であり、師であった。 一時間ちかくを費やした男二人プリクラ撮影の旅を終えた私はギタリストの家に上がり込み、泊まりがけの祝勝会を行なった。 いや…別に何かに勝っても負けてもいないんだがね…。
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