貴女と僕の傷跡

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そのやり取り以降、私と美結の携帯電話は常にメールの着信音が鳴っていた。 そんな日が三日ほど続いた後、美結が切り出してきた。 「Flare Fieldさん。相談があるの。」 緊迫感のある文面だ。 なんだ? 自慢じゃねぇが金なら無ぇぜ? お嬢ちゃん。 詐欺ろうってんなら他あたんな。 『相談?何?どうしたの?』 私の額にラード…いや、脂汗が吹き出てくる。 「あの、本名教えてよ~!ずるいじゃんかぁ!あたしだけ美結って教えてんのにぃ!」 トゥンク… … いや!だからトゥンクじゃねぇ!! …とまぁ意地を張るのもこの時点で諦めた記憶があるな。 もうこの時、私は駄目だった。 そして純粋だった。 そらそうよな。 二十歳の小僧だぜ? そういえばバンドで名乗っていた源氏名しかHPに載せてなかった。 当たり前だが不特定多数が閲覧するのにク○マジメに本名を載せるアホはおるまい。 その辺はさすがに大人だな。 『たける…たけるっていうんだ。』 「たける…いやぁあぁ!カッコいい名前!」 トゥンク… 『アハハ…そうかな…?』 「うん!素敵な名前!」 トゥンク… 『俺はあんま好きじゃないんだけどな。』 「あ、初めて俺っていったぁ!今まで僕だったのにぃ。」 トゥンク… 『お、よく見てんなぁ。』 「そりゃそうだよォ。」 トゥンク… あー!もー!トゥンクトゥンクうるせぇええええエエ!!勝手にときめいてろ!!ウスラ馬鹿の脳内お花畑粗大ゴミが!! 『じゃあこれから俺の事名前で呼んでくれる?』 「うん!もちろんだよ!そのために教えてもらったんだもん!たける様!」 トゥンク… 様…さま…サマ…サマ…sama… 『ん?さま?』 「うん!あたしが辛い時にたける様の日記読んでたら本当に元気が出たの。お腹痛くなるくらい笑ったの!そんなに笑ったのってホント久しぶりだったの!いっつもたける様の日記はあたしを助けてくれたの。だからね、様、たける様。」 … あはん。 いやん。 もうあかん。 これはあかん。 あかんやつや。 もういい。 美結の姿かたちが例えゴブリンでも好きになれる自信がある。 いや、嘘だ。 言い過ぎた。 モンスターはあんまりだ。 せめて人間のかたちであれ。 そして女であれ。 さすれば我必ずや恋に落ちん。 情けない話、二十歳の私は十五、六歳の女子高生と自称する声も顔も知らんヤツに、メールの文面だけで骨抜きにされたのだ。 おい、世の中の女どもよ。 口では色々言っても結局男どもはこんなもんだ。 こんなにちょろく、弱い生き物なんだ。 だからもう少し優しくしろ。 自分が優しくされた分だけでいい。 もう少しだけ優しくしろ。 『なんか照れるなぁ。』 「たける様もしかして赤くなってんの?」 『…うん、赤くなってる…。』 「たける様かわいい!こんなんで赤くなっちゃうんだね!かわいいな!」 二十歳になるまでこんなにも「かゆいところに手が届く」ってのを味わった事があっただろうか。 二十歳になるまでこんなにむず痒くなるようなやり取りをした事があっただろうか。 思えば今こうして文を書いて、皆様に読んでもらいたいという欲求があるのも美結のお陰なのかもしれないな。 自分が文で誰かを笑わせて助けたという成功体験をいまだに忘れる事ができないのだろう。 そして美結に押されっぱなしだった私は遂に禁断の領域に足を踏み入れた。 『かわいいだなんて…初めて言われたよ。ところでさ、美結。』 「なぁに?たける様」 『美結の声聞いてみたい。』
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