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Track 3. 一等星
答えを決めかねている類人に、百合子はスリットが入った魅惑的な脚を組み替えて、はっきりとこう言った。
「歌が歌いたければ歌手を目指すべきだし、踊りが好きならダンサーだっていい。J-POPにこだわる必要がないなら海外に渡るのも一つの手よ。それなのにあなたたちがなりたいって口を揃えて言うアイドルって、いったいなぁに?」
――アイドル。神像、偶像、崇拝の対象、実体のない虚像。
誰かの一等星になりたかった。
地上から肉眼で見えるシリウスのように、不安を抱えた人が見上げた夜空を照らす恒星に。
きっかけは何だっただろう。
国語の授業で音読が苦手だったことか。
給食を食べるのがクラスで一番遅かったことか。
それとも実家が花屋だったことを「おとこのくせに」と同級生から揶揄われたことか。
何だかよく覚えていないが、そこまで重要な理由ではなかった気がする。
苛めというほど陰湿な害はなかったが、クラスメートから徐々に無視されるようになった類人の幼く柔らかい自己肯定力は、跡形もなく蝕まれた。
心を許せる友人ができず、孤独を甘んじる日々を無為に過ごしていた少年は、家でテレビを見る時間が多かった。
流行りのアニメも見飽きてしまったし、夕方のニュースは小学生にはつまらない。
壮年のニュースキャスターが時事を読み上げて、若く溌溂とした女性アナウンサーにカメラが切り替わったあたりでチャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばしたその時、運命的な出会いは突然訪れた。
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