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「じゃあどうして類人なんだ! 彼は今まさにタレント人生の岐路に立たされてるんだ、気まぐれに振り回すような真似はやめてくれ!」
「多嘉司、落ち着きなさい」
「百合子社長まで何なんですか……! 努力を上回る才能が存在することは認めます! それでも真面目に貫いた努力を裏切るようなことをしたくありません! 類人だけじゃない、デビュー前の子たちは俺たちを信じてかけがえのない時間を預けてくれてるんですよ!? それをこのルーキーために蔑ろにするって言うんですか!?」
唾が飛びそうなほどの剣幕に、百合子は眉間を指で押さえて溜息を溢した。
彼の言っていることは何一つ間違っていない。だがルナールも自分たちが大切に育てるべきアイドルの卵だということを忘れている。
「だから落ち着きなさいってば。あなたはタレント時代から猪突猛進すぎるのよ。少しはこの子の話も聞いてあげてちょうだい」
百合子に窘められ、多嘉司はぐっと唇を嚙み締める。
先代の社長が在籍していた頃、今の多嘉司のようにデビュー前のタレントの面倒を見ていたのが百合子だ。長い下積み時代に数え切れないほど世話になった彼女の後ろ姿を追ってマネージャーへ転身したと言うのに、こんな仕打ちはあんまりだと項垂れる。
するとルナールはおもむろに「よかった」と口にした。
予想外の言葉を聞いて多嘉司は怪訝そうに顔を上げる。視線の先にはカメラマンのシャッターが止まらなくなるくらい神々しい微笑みが浮かんでいた。
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