Track 4. シンメトリー

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 無邪気にはしゃぐルナールを保護者目線で見守る類人には、これからの期待よりも心配事の方が遥かに多い。  十七歳入所という経歴は、事務所の特色からすると少し遅い方だ。しかも百合子社長のスペオキ。彼の周囲には大人の期待と子ども嫉妬が混ざり合った異様な渦が漂っている。  どこへ行こうとも風当たりが強くなるだろうと心配する類人に「僕が類人さんに相応しいことを証明してやる!」と見当違いなやる気を見せたルナール。「何でお前が」と思われているのは類人の方なのに。  だが百合子(ゆりこ)が見つけた超新星は伊達じゃない。ルナールは周囲からの不躾な視線と類人の杞憂を吹き飛ばすほどのポテンシャルを見せつけたのだ。  アメリカのダンススクールに通っていたらしく、日本人にあまり馴染みのない表現力はいっそう目を惹いた。バレエの基礎もあって、しなやかさとメリハリが効いたダンスは十分にステージ映えするだろう。  ボイトレを始めてからの成長ぶりは著しく、特に高音域が素晴らしい。試しに類人が下ハモに入ってみると、二人の歌声は質が似通っているらしく効果的に耳に残った。「まるで二人で一つの声みたい。あなたたちは出会うべくして出会ったのね」と、コーチからお墨付きまで貰った。  加えて演技も怖い物知らず。経験を積ませようと事務所主催の興行に参加することになったのだが、海外仕込みの大胆な表現力に触発された演出家が急遽台本を作り直したくらいだ。当初一行だった台詞は、気づけば一ページに増えた。
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