Track 4. シンメトリー

5/6
前へ
/34ページ
次へ
 するとどいう現象が起きるかと言うと、二人は格差売りからセット売りにシフトチェンジされ、いつしか『奇跡のシンメ』と呼ばれるようになった。  シンメとは、シンメトリーの略である。  ダンスフォーメーションの一つで、ステージに立った時に左右対称の位置にいる二人のことを指す。身長や体格のバランスを考えて現場の振付師が適当に振り分けることがほとんどだ。そこから二人セットで行動するようになって生み出される性格面やパフォーマンスの芸術的な相対性は、アイドル業界の神秘と呼ばれる。  つまりシンメはなろうと思ってなれるものではない、大変名誉な称号だった。  この好転を誰より喜んだのは、以前から類人を応援していたファンたちだ。  社長のスペオキとセット売りが発表された当初こそ「類人くんが日陰者にされる」と警戒心を剥き出しにしていたが、ルナールが類人のガチヲタと知れ渡って一転、「公式の同担には勝てん」と二人の門出を祝福し始めた。今ではルナールの旗振りの下、類人の布教活動に勤しんでいる。  デビュー前のタレントが出演する歌番組でのソロが増え、ダンスでは端から二番目の立ち位置だったのがルナールと共にセンターを任されるようになり、ついには朝の情報番組内で二人のMCコーナーが始まった。  背中合わせの撮影にも慣れたものだ。まるで最初から二振一具で作られたように、二人の凹凸はピタリとはまる。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加