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モッズコートに鼻まで埋めて「寒いね~」なんて言いながら歩く美麗な横顔は、どことなく覇気がない。
その様子に、類人の胸が急激に騒めいた。今聞かないと一生後悔する気がして、ずっと奥底に秘めていた疑問を投げかける。
星の数ほどいるアイドルの中でルナールのお眼鏡に叶ったのが、なぜ自分だったのか。
遠いアメリカの地からどうやって光の届かない底辺で藻掻く星屑を見つけられたのか。
なぜ二人が人気絶頂の今、年明けのスケジュールが一切決められていないのか。
心のどこかで聞いてはいけないと思っていた。この眩い夢が一瞬で醒めてしまう気がして、目を逸らし続けてきた。だがルナールの言う『一番星』がどうしても引っかかるのだ。
類人が目標としてきたシリウスは『一等星』と呼ばれる。等は星の明るさを示し、太陽を除いて地上から見える最も明るい恒星がシリウスだ。
一方で、夕暮れ時に最初に見える星のことを『一番星』と呼ぶ。天文学的に定義されたものではない。空を見上げて一番最初に見つけた星が、その人にとっての一番星となるのだ。
つまりルナールの空に最初に灯った星が類人だったということになる。その理由を知りたい。いや、知らなければならない。
あれこれ考えて立ち止まってばかりだった自分にルナールがいつもしてくれたように、類人はポケットに深く突っ込まれた彼の手を引いて歩き出した。
「え、えっ? 類人さん?」
らしくない行動に驚いたルナールが無防備な声を上げる。
お互いポケットに入れていた素手は温かく、むしろ絡む指先は火傷しそうなほどの熱を持っているような錯覚さえする。なぜならルナールにとって、類人は遥か遠くの銀河で煌めく星そのものだったから。
繋がれた手を弱々しく握り返し、ルナールは観念したようにこの奇跡の経緯をぽつりぽつりと語り始める。
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