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骨格の定まらない少年たちの十年後の姿が見えるという百合子の審美眼は、ルナールが将来齎すであろう日本エンタメ産業への年間経済効果を3000億円と仮定した。
言わば幻の金鉱山、人間国宝の職人の手元に舞い込んだ原石、アイドル業界の至宝なのである。
が、お金の話など彼女はどうでもいい。
彼の立った場所が舞台のセンターになると言っても過言ではない圧倒的な存在感は、事務所の内外に大きな衝撃を齎すだろう。
多国籍が入り混じって飽和状態にあるボーイズグループ市場に、日本が愛で育ててきた『アイドル』という特異な存在を再臨させる。それが百合子の夢だ。
その布石として、ルナールは十分すぎる素質を秘めている。
敏腕な秘書はその場で契約書を作成して、ルナールと家族へ提示した。美しい顔を怪訝にひそめたルナールだったが、タブレットに表示された電子契約書にORIONの表記を見つけた瞬間、その態度が豹変。
「オーケー百合子! 僕行くよ、日本に!」
見た者を消し炭に変えそうなほど神々しい笑顔で電子署名をしたルナールは、呆ける家族をよそにブラックカードを一枚持って日本へ降り立った。
オリオンの初代社長が理事長を務める芸能人ご用達の私立高校で留学ビザを取り、超人的なスタイルであるがゆえに似合わない学生服を着て東京の街を歩くルナール。何を隠そう、彼は生粋のドルオタなのである。
教育に厳しい親の目を盗んでアメリカの自宅から日本人男性アイドルのコンサートDVDを輸入し、自作のファンサうちわと公式ペンライトをテレビの前で振り回しながら尊いと涙を流して七年。立派なドルオタ御曹司に成長したルナールにとって、百合子との出会いはまさに天啓だったのだ。
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