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「僕、類人さんと一緒じゃなきゃアイドルやりません」
これは街頭ディスプレイでの一幕より一か月前の話である。
常に最新のエンタメを求め世界中を飛び回る神出鬼没な百合子社長に珍しく呼び出されて緊張していた類人の前で、駄々を捏ねる子どものようにきっぱりすっぱり言い放つ。
天使の擬人化を思わせる端麗な容姿から放たれたまさかの言葉に、渦中の類人は密かに絶望に打ちひしがれた。
百合子が直々にスカウトした金の卵の噂は既に事務所の内外で大きな話題になっていて、そんな彼からの突然のご指名は見方を変えればチャンスと言える。デビュー前の若いタレントが犇めくORIONで頭一つ抜きん出るために、社長のスペオキであるルナールの提案はまさに鶴の一声と成り得るだろう。
しかし類人は知っている。
本人や事務所の意向がどうであれ、外部の人間の手が加わったマーケティングにはわかりやすく『格差』が用いられる場合があることを。
センターの一人を輝かせるためには、本人に努力をしてもらうよりも周りを下げた方が簡単で効率的なのだ。
アイドルは産業なのだから、そういう側面があったとしても仕方がないと理解はしている。そして一度作られた『格差』は長い年月を経ても完全に拭い去ることが難しい。
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