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人間には生まれ持った役割があると類人は考えている。そして察した。この金の卵の経済効果を最大限捻出するために、自分が『下げられる側』に回される未来を。そのために何者にもなれず星空の隅で燻っていたのだと。
(俺がなりたかったのは、シリウスなのに)
アイドルはファンの間でよく星に準えて語られる。自らが持つ光源で光る恒星もあれば、彗星のように他の星の光を反射して輝く星もある。
類人がなりたかったアイドルは、全天の一等星の中で最も明るい恒星、シリウスだ。金の卵を輝かせるための宇宙の塵ではない。
彼の危惧を唯一理解してくれたのは、事務所が抱えるアイドルの卵たちのマネージャー、藤本多嘉司だった。
彼自身もかつてORIONでデビューを目指し研鑽を重ねた一人である。努力が必ずしも報われるわけではないことを身をもって知っている多嘉司は、後輩に夢を託してサポート役に回った。
大型新人の気まぐれとカリスマ社長の圧力が蠢く災禍のような空気の中で「類人はほら、大事な時期だし。無理に受ける必要はないからな」と青い顔で言ってくれた。
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