1.死なない身体になる薬

1/1
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

1.死なない身体になる薬

「つまり、この薬を飲めば不死の身体を手に入れられる。エドワード、君にはこの薬を飲んでもらう。君の時は流れていくが、その肉体は死なない。この実験に協力してくれたら、君が一生金に困らないように私の会社が手厚くサポートをさせてもらうよ」  エドワード・ノートンは四十二歳の清掃員だ。今までに何度も職を変わっていて、ここ最近はロンドンの街の清掃を担う会社で時給を貰って働いていた。中肉中背で容姿も中庸。髪もそこまで後退してはいないが、年齢と共に少しボリュームが減って来ただけの、平凡な男だった。  エドワードに不死の薬のモニターを頼んだ男は、カイル・キャデラー、五十三歳だ。製薬会社のCEOで、エドワードが幼少期に住んでいた家の近所に住む顔なじみだった。  エドワードは中等教育が終わった後、職を転々とした。その頃にはカイルは製薬会社を立ち上げて成功していた。カイルの製薬会社は、新薬の開発に秀でた実績を残しており、この不死の薬は極秘裏に行われている最先端の研究成果だった。 「この薬を飲めば不死になれるだって? そして金に困る事は無い、と? 本当か? どんな贅沢をしても許されるくらいに手厚くサポートしてくれるんだろうな?」 「ああ、もちろんだ」  ろくに定職に就いていなかったエドワードにとって、働かずして遊んで暮らせるだけの金を貰えるという事は魅力だった。  今まで自分には振り向こうともしなかった女共、自分を見て汚いものでも目にしたかのような表情をするデパートのショップ店員、そういった人間を今度は上から見下ろせるかもしれない。そんな期待がエドワードの心には生まれた。 「でもよ、死なないって言ってもよ、どうしても人生を終えたくなったらどうするんだ。それでも俺は死ねなくなるのか?」  エドワードがそう疑問を口にすると、カイルは微笑みながらこう言った。 「安心しろエドワード。もしもどうしても人生を終えたくなったら、首を切り落として、心臓も取り出してそれを握りつぶすと良い。そうすれば、お前はやっと死ねる。ただ、な。ただ怪我を負っただけじゃ死なないし、病気にもならない。いいか、首を切り落として心臓も握りつぶすんだ」 「は、ははは……! 何だ、死ねるじゃねぇか! いざとなったらそこら辺の貧乏人を雇って俺を殺させてやるよ!」 「果たしてそう上手く行くかな? お前は戸籍上から消えるわけではない。お前は未来永劫この世で生きているれっきとした善良な市民だ。お前を殺せば相手は殺人罪に問われる事になる。それに、お前はこれから『死なない男』として有名になるだろう。そんな有名人のお前を、殺してくれる相手に出会えるかな?」 「はっ。何とでも言え。金は何にも勝るんだよ」  そうして、エドワードはカイルから薬を受け取ると、それを一気に飲み干した。 「ははは……! これで俺は不死身だ! 無敵だ! 金もある! 人生バラ色だ!!」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!