最後のその日まで

7/7
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「地球トイウ星デハ、クリスマストイウ文化ガアッタ。サンタクラウスガ子供タチニ夢ヲ運ブノダ」  ティーチャーAIがウィンドウに画像を出す。 「コレガ、地球最後ノ、幻想ノクリスマス」  純粋なAI種7割、AI臓器人類3割の、Japaneseモードクラスのメンバーは、画像に見入った。 「地球研究チームガ、2075年世界大地震ノ3年後二探索二行ッタ際二、発見サレタカメラノ中ニアッタモノダ」  地球最後の幻想のクリスマスと題されたその画像は、こんなふうだった。  三角のてっぺんに白いフワフワの玉がついた赤い帽子に、揃いの赤いジャケットを着た数百人の様々な人種の人類が集まり、全員涙を流しながら笑顔でレンズを見ている。  バックに映る、真っ暗闇の空には、緑とも青とも紫ともとれる幻想的な光のカーテンが広がっている。  さらに、彼らの周りにあるロッジの屋根や高い樹木には、赤緑黄色、色とりどりの電飾が施され、一層夢のような輝きを放っていた。  足元の雪には、木の枝で 「MERRY CHRISTMAS」の文字。 「同ジカメラにニ残サレテイタ動画ダ」  ティーチャーAIはウィンドウを操作する。 『火星で生きる皆さんへ。私は、地球で、日本という国で生きた17歳の今井沙織です。今日、2075年12月24日、地球では、マグニチュード10クラスの大地震が起きました。こちらで生き残ることは絶望的です』 『ですが、今日はクリスマスイブ。明日はクリスマスです。なんという運命か、ここは、フィンランド、ラップランド。サンタクロースの住む町なのです』 『私たち人間は、夢と希望に溢れていました。家族や隣人と手を取り合い、苦しみも幸せも、共に歩んできました。人間に生まれてよかった。みな、クリスマスは大好きなのです』 『AI種の皆さんには、泣きながら笑うという感情がわかるでしょうか。悲しみと幸せで同時に胸がいっぱいなのです。不思議な感情ですね。ですから私たちは、最後のメリークリスマスを、笑顔で、私たち自身に向けて、また、火星の皆さんに向けて贈ります』 〈完〉
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!