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瓦屋根のついた立派な門が、私の前にそびえている。
屋根の色は青みがかった灰色で、扉の部分は木でできていた。
まるで、歴史ドラマに出てくるお城の入口みたいだ。
「宮」と筆で書かれた恰好いい表札の下に、真新しいインターホンがついている。
釦を押してしばらく待っていると、白髪のお上品なおばあさんが顔をのぞかせた。
「あら、鈴人のお友達?」
ワンピースの胸をキュッとつまんで、私は答えた。
「はじめまして。鈴人くんのクラスメイトの、犬塚菜尾です!」
土曜日。私は宮くんの家におじゃました。
縁側の先には、よく手入れされた日本庭園が広がっていた。
木漏日のさしこむ池では、数匹の錦鯉がゆったりと泳いでいる。
小さな橋までかかっていて、こちらも立派だ。
家の中はひろびろとしていて、部屋もたくさんあった。
お城というより、高級な旅館みたいに見える。
案内がなかったら、家の中で迷子になっちゃいそうだ。
私を二階の部屋に通して、宮くんのおばあちゃんが言った。
「ちょっと待っててね。そろそろ帰ってくるはずだから」
坐卓の前にちょこんと坐る。
私は圧倒されたように、あたりを見回していた。
大きな本棚が、部屋を取りかこむように置いてある。
辞書みたいにぶあつい本や、英語のむずかしそうな本が、ぎっしりと並んでいた。
いったい何について書かれた本なのか、背表紙をながめているだけじゃ、おばかな私にはさっぱりわからない。
いちばん上の段の本は、はしごを使わなくちゃ取れないんじゃないかって心配になるくらい、高いところにある。
地震が来たら今にもくずれてきて、私は本の津波にのみ込まれちゃいそうだ。
机には、パソコンとつながった立派な顕微鏡があった。
学校の理科室にあるようなかわいらしいものじゃなくて、机と一体になっていて、すごく大きい。
見た目もずっしりと重たそうで、台車でなくちゃ運べなさそうだ。
よく見ると、金属のこげたような痕や、何かとぶつかったような傷がいくつもついている。
そのそばには、一枚の写真立が置いてあった。
薄紫の額縁がついていて、可愛い色だなって思った。
ランドセルも教科書も見当たらないから、宮くんの部屋ではなさそうだ。
「犬塚さん、おまたせ」
高級そうなジュースとケーキを持って、宮くんが部屋に入ってくる。
その姿に、私は息をのんだ。
今日の宮くんは猫ではなくて、いつもの人間の見た目をしている。
さらさらした前髪の下に、茶色の澄んだ目がのぞいていた。
鼻筋はすっと通っていて、形もきれいだ。
白い肌や長いまつげは、少し女の子っぽくもある。
でも、すらりと背が高くて、表情もすずしげで、大人びて見える。
ととのった顔立に、私はつい見とれてしまった。
こんな恰好いい男の子が本当にいるんだな……。
「自転車でケーキ屋に行ってたんだ。待たせてごめんな」
「ううん。私も来たばっかりだよ」
宮くんにうながされて、私はおそるおそる、小皿のケーキをくずしながら食べた。
男の子の家にさそわれるのは初めてだから、すごく緊張する。
だけど、甘いチョコクリームを舌の上でとかしているうちに、だんだんと心も落ち着いてきた。
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