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冷たいりんごジュースをこくんと一口飲み、私はようやく切り出した。
「宮くんって、いったい何者なの?」
坐卓の向かい側で、宮くんがすました顔をして、自分のコップにジュースをそそいでいる。
あごに手を添え、私は名探偵みたいに推理した。
「もしかして、神社の神様に、猫になる呪いをかけられちゃったとか。それとも、実は正体は猫又で、人間に化けて学校に通ってるとか……」
友達にすすめられた、和風ファンタジーの小説を思い出す。
わくわくしながら訊ねる私を、宮くんはやんわりと否定した。
「ちがうちがう。きのうも言ったけど、俺はふつうの人間だ」
宮くんはジュースの瓶をおぼんに置くと、飾ってあった写真立を持ってきた。
それを見て、私は自然と笑顔になった。
「わあ、ちっちゃい宮くんだ」
家族写真だった。
まだ幼い宮くんと、おばあちゃん。
そして、金色のペンダントをさげた、白衣の女の人が立っている。
少し照れくさそうに、宮くんは言った。
「俺の母さんは、大学の生物学の先生なんだ。家でもよく実験してて、ときどき俺も手伝ってたよ。……だけどこの前の冬、事故を起こしちゃってさ」
「事故?」
首をかしげる私に、宮くんがけわしい顔でうなずく。
「『引火』ってわかるか? 機械に電気を流したら、火花が散って、もれていた薬品がいっきに燃えたんだ。ものすごい爆発だった。壁も屋根もこなごなになって、家はもうめっちゃくちゃ」
「それで、おばあちゃんの家に引っ越して、私たちの学校にも転校してきたんだね」
「そういうこと」
落ち着いた顔で、宮くんがうなずいた。
「飼猫は一階にいて、無事だったんだけどな。屋根裏の実験室にいた俺は、飛び散った薬品をあびちゃって。それ以来、俺はときどき猫に変身するようになったってわけ」
「転校先では、ぜったいに秘密にするつもりだったんだけどな……」と、宮くんは自分の首をさすり、つぶやいた。
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