1. 猫になった男の子

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 冷たいりんごジュースをこくんと一口飲み、私はようやく切り出した。 「宮くんって、いったい何者なの?」  坐卓の向かい側で、宮くんがすました顔をして、自分のコップにジュースをそそいでいる。  あごに手を添え、私は名探偵みたいに推理した。 「もしかして、神社の神様に、猫になる呪いをかけられちゃったとか。それとも、実は正体は猫又で、人間に化けて学校に通ってるとか……」  友達にすすめられた、和風ファンタジーの小説を思い出す。  わくわくしながら訊ねる私を、宮くんはやんわりと否定した。 「ちがうちがう。きのうも言ったけど、俺はふつうの人間だ」  宮くんはジュースの瓶をおぼんに置くと、飾ってあった写真立を持ってきた。  それを見て、私は自然と笑顔になった。 「わあ、ちっちゃい宮くんだ」  家族写真だった。  まだ幼い宮くんと、おばあちゃん。  そして、金色のペンダントをさげた、白衣の女の人が立っている。  少し照れくさそうに、宮くんは言った。 「俺の母さんは、大学の生物学の先生なんだ。家でもよく実験してて、ときどき俺も手伝ってたよ。……だけどこの前の冬、事故を起こしちゃってさ」 「事故?」  首をかしげる私に、宮くんがけわしい顔でうなずく。 「『引火』ってわかるか? 機械に電気を流したら、火花が散って、もれていた薬品がいっきに燃えたんだ。ものすごい爆発だった。壁も屋根もこなごなになって、家はもうめっちゃくちゃ」 「それで、おばあちゃんの家に引っ越して、私たちの学校にも転校してきたんだね」 「そういうこと」  落ち着いた顔で、宮くんがうなずいた。 「飼猫は一階にいて、無事だったんだけどな。屋根裏の実験室にいた俺は、飛び散った薬品をあびちゃって。それ以来、俺はときどき猫に変身するようになったってわけ」 「転校先では、ぜったいに秘密にするつもりだったんだけどな……」と、宮くんは自分の首をさすり、つぶやいた。
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