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ふしぎな転校生の話を聞いて、さっきまでわくわくしていた私は、自分の態度をちょっと反省した。
自分の気持ちと関係なく勝手に猫に変身しちゃうだなんて、ずいぶん大変そう。
目の前にいる宮くんを、私はかわいそうだなって思った。
「完全に人間に戻る方法はないの?」
「あるには、ある」
宮くんは引出しから、銀色の手鏡を取り出した。
四角いうちわのような形をしている。
見た目は普通の鏡だけど、持手に電源釦がついていた。
「母さんが発明した、『千変鏡』っていう機械だ。これを使えば、どんな生き物にも変身できる。もちろん、人間にも戻れるはずだ」
私は身を乗り出し、目をキランとかがやかせた。
「どんな生き物にでも?! すごいね!」
「だけど、使い方がさっぱりわからない」
「なあんだ。つまんない」
私は肩を落として、またジュースを注ぎ足した。
宮くんが坐卓のまんなかに、そっと千変鏡を置く。
そして、真剣そうなまなざしで言った。
「犬塚さん。俺といっしょに、千変鏡のしくみを解き明かしてくれないか」
「ええっ?!」
突然のお願いに、私はジュースをこぼしそうになった。
宮くんが、私の目をまっすぐ見つめて言う。
「俺、転校してきたばっかりで、まだ友達って言えるやつもいない。きみにしか頼めないんだ」
たじたじになりながら、私は言い訳した。
「でも、私、きっと役に立たないよ! 勉強も得意じゃないし。ドジだし、あわてんぼうだし。そもそも、私と宮くんも、友達っていうわけじゃないし」
「じゃあ、俺と友達になれば、協力してくれるのか」
さらりとそんなことを言われて、私は言葉に詰まってしまった。
どう答えたらいいのかわからず、おろおろしていると、宮くんは座布団からおりて正坐した。
「俺が猫になることは、ばあちゃんにも秘密にしてる。迷惑をかけたくないからな。事情を知ってるのは、犬塚さんだけなんだ。たのむ! 力を貸してくれ」
宮くんはいきおいよく頭を下げた。
私は困りはててしまった。
でも、そのあと、すごくいいことを思いついた。
「……いいよ」
私は言った。
「本当か?」
宮くんがぱっと顔を上げる。
「でも、一つだけ条件があるの」
私はピンと人差指を立てた。
「宮くんが猫になったら、またもふもふさせてくれないかな……?」
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