1. 猫になった男の子

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 ふしぎな転校生の話を聞いて、さっきまでわくわくしていた私は、自分の態度をちょっと反省した。  自分の気持ちと関係なく勝手に猫に変身しちゃうだなんて、ずいぶん大変そう。  目の前にいる宮くんを、私はかわいそうだなって思った。 「完全に人間に戻る方法はないの?」 「あるには、ある」  宮くんは引出しから、銀色の手鏡を取り出した。  四角いうちわのような形をしている。  見た目は普通の鏡だけど、持手に電源(ボタン)がついていた。 「母さんが発明した、『千変鏡(せんぺんきよう)』っていう機械だ。これを使えば、どんな生き物にも変身できる。もちろん、人間にも戻れるはずだ」  私は身を乗り出し、目をキランとかがやかせた。 「どんな生き物にでも?! すごいね!」 「だけど、使い方がさっぱりわからない」 「なあんだ。つまんない」  私は肩を落として、またジュースを注ぎ足した。  宮くんが坐卓のまんなかに、そっと千変鏡を置く。  そして、真剣そうなまなざしで言った。 「犬塚さん。俺といっしょに、千変鏡のしくみを解き明かしてくれないか」 「ええっ?!」  突然のお願いに、私はジュースをこぼしそうになった。  宮くんが、私の目をまっすぐ見つめて言う。 「俺、転校してきたばっかりで、まだ友達って言えるやつもいない。きみにしか頼めないんだ」  たじたじになりながら、私は言い訳した。 「でも、私、きっと役に立たないよ! 勉強も得意じゃないし。ドジだし、あわてんぼうだし。そもそも、私と宮くんも、友達っていうわけじゃないし」 「じゃあ、俺と友達になれば、協力してくれるのか」  さらりとそんなことを言われて、私は言葉に詰まってしまった。  どう答えたらいいのかわからず、おろおろしていると、宮くんは座布団からおりて正坐した。 「俺が猫になることは、ばあちゃんにも秘密にしてる。迷惑をかけたくないからな。事情を知ってるのは、犬塚さんだけなんだ。たのむ! 力を貸してくれ」  宮くんはいきおいよく頭を下げた。  私は困りはててしまった。  でも、そのあと、すごくいいことを思いついた。 「……いいよ」  私は言った。 「本当か?」  宮くんがぱっと顔を上げる。 「でも、一つだけ条件があるの」  私はピンと人差指を立てた。 「宮くんが猫になったら、またもふもふさせてくれないかな……?」
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