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「そ……それはダメだ」
「どうして?!」
宮くんはふいに立ち上がると、障子の前に歩いて行って、また自分の首をさすった。
「俺、自分の猫の恰好、あんまり好きじゃねえんだよ。プライドが傷つくっていうか、猫あつかいされるのが無理っていうか……だからダメだ」
「私は、猫の宮くんのこと好きだよ。さらさらしてて気持いいし。真っ白ですごくきれいだし。ね? おねがいします」
そばに駈け寄り、せいいっぱい頼み込む。
宮くんはなやましそうに目をつむっていたけど、覚悟を決めたらしく、顔を上げた。
「わかった。じゃあ、しくみがわかるまでのあいだ、協力してくれるっていうことで。よろしくな」
前髪をさらりと揺らし、宮くんがほほえむ。
「よ、よろしく……」
私は小さな声で返事をした。
宮くんが笑っているところを、私ははじめて見た。
転校してきたばかりころは、すずしげで寡黙な印象があったけど、実はこんな表情もできるんだ。
「でも、私なんかがいなくても、使い方なんてすぐわかるよ。作った人に訊けばいいんだから。宮くんのお母さんって、今どこにいるの? 大学って、ここから遠いのかな」
私は手びさしをつくって、外を遠くまで見渡した。
青空の下に、私たちの住む七姫市の町並がひろがっている。
だけど、宮くんはさみしそうに首を横に振った。
「事故の時、行方不明になったんだ。警察は、亡くなったんじゃないかって言ってる」
「そんな……」
なんて言葉をかけたらいいのか、私にはわからなかった。
でも、宮くんは悲しそうなそぶりは見せずに、腕を組んで考え込んだ。
「だけど、体が見つかってないんだ。不思議だよな。まるで、爆発と一緒に消えちゃったみたいに……。なきがらが見つかるまでは、俺もばあちゃんも、母さんはまだ生きてるって信じてるよ」
本棚のはしっこには、手書きのノートが何十冊も並んでいる。
宮くんはその中から、てきとうに一冊を取り出した。
「わあ、すごい」
私は感動した。
千変鏡の絵が、ボールペンで細かく描いてあった。
内側のたくさんの配線まで、色分けして詳しくのっている。
そのすきまに、整った字で説明がびっしりと書き込まれていた。
「母さんの研究ノートだよ。これをもとに、千変鏡のしくみを解き明かすんだ」
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