1. 猫になった男の子

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「そ……それはダメだ」 「どうして?!」  宮くんはふいに立ち上がると、障子の前に歩いて行って、また自分の首をさすった。 「俺、自分の猫の恰好、あんまり好きじゃねえんだよ。プライドが傷つくっていうか、猫あつかいされるのが無理っていうか……だからダメだ」 「私は、猫の宮くんのこと好きだよ。さらさらしてて気持いいし。真っ白ですごくきれいだし。ね? おねがいします」  そばに駈け寄り、せいいっぱい頼み込む。  宮くんはなやましそうに目をつむっていたけど、覚悟を決めたらしく、顔を上げた。 「わかった。じゃあ、しくみがわかるまでのあいだ、協力してくれるっていうことで。よろしくな」  前髪をさらりと揺らし、宮くんがほほえむ。 「よ、よろしく……」  私は小さな声で返事をした。  宮くんが笑っているところを、私ははじめて見た。  転校してきたばかりころは、すずしげで寡黙な印象があったけど、実はこんな表情もできるんだ。 「でも、私なんかがいなくても、使い方なんてすぐわかるよ。作った人に訊けばいいんだから。宮くんのお母さんって、今どこにいるの? 大学って、ここから遠いのかな」  私は手びさしをつくって、外を遠くまで見渡した。  青空の下に、私たちの住む七姫市(ななひめし)の町並がひろがっている。  だけど、宮くんはさみしそうに首を横に振った。 「事故の時、行方不明になったんだ。警察は、亡くなったんじゃないかって言ってる」 「そんな……」  なんて言葉をかけたらいいのか、私にはわからなかった。  でも、宮くんは悲しそうなそぶりは見せずに、腕を組んで考え込んだ。 「だけど、体が見つかってないんだ。不思議だよな。まるで、爆発と一緒に消えちゃったみたいに……。なきがらが見つかるまでは、俺もばあちゃんも、母さんはまだ生きてるって信じてるよ」  本棚のはしっこには、手書きのノートが何十冊も並んでいる。  宮くんはその中から、てきとうに一冊を取り出した。 「わあ、すごい」  私は感動した。  千変鏡の絵が、ボールペンで細かく描いてあった。  内側のたくさんの配線まで、色分けして詳しくのっている。  そのすきまに、整った字で説明がびっしりと書き込まれていた。 「母さんの研究ノートだよ。これをもとに、千変鏡のしくみを解き明かすんだ」
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