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「……え?」
「ここだけの話なんだけど私さ、シュークリーム嫌いなんだよね。豚骨ラーメンとかフライドポテトとか、そういうジャンキーなのが好きなの」
口調が、声の陰影が、彼女に持っていた第一印象の全てが一瞬で塗り変わった。たった十分前にはお淑やかで優しい声でクラスメイトと話していたのに今耳元で紡がれる言葉は、無味無臭の劇毒だ。紫色の毒々しい言葉が僕の五感を狂わせてしまって、目の前の彼女に対する警戒心が途端に芽生えた。
「何でいきなり、そんな話をするんだ?」
「君さ、友達少ないでしょ。多分、あんまり人とかに興味無いタイプの人。君が今の私を誰かに話しても信じないよ。誰もね」
「全然答えになってないし、僕は空気読めないから大声で叫ぶぞ」
まさか教室の端で心理戦が繰り広げられているなんて誰も思わないだろう。そして透花は分かっている。殆どの人が僕達を見ていない事を。ちゃんと計算して考えている。その事実が僕に最大限の警戒をしろと脳内で警報を鳴らしている。
「じゃあ海じゃなくていいから後で散歩しようよ」
「……君は僕に、何を求めてるんだ?」
「逆だよ。君に何も期待してないから誘ってるの。あと君と私は、似ている所があるんだよ」
耳元から彼女が離れると、後ろから女子数人が丁度良く現れた。恐らくさっきの質疑応答の時に近づけなかった人達だろう。緊張した面持ちで、呼吸が荒かった。
「何してたの透花ちゃん?」
「蒼太さんに蚊が止まっていたので振り払っていたんですよ」
「透花さん、ちょっとこっちで話さない? 挨拶したいって人がいてさ」
「ええ、良いですよ」
初対面の時と同じ、上品に席を立つと向こうに行こうとする。彼女は一度こっちを振り返ると、優しく微笑む。
「また後で。楽しみにしてますよ」
僕は肯定も否定も出来ずに曖昧に誤魔化した。
また一人になって外の蝉の声を聞き直す。
「何が目的なんだ……?」
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