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「じゃあ行こうか」
「本当に行くのか? 誰かに見られたら変な勘違いされるよ。そして破滅の道へと……」
「そうなったら君に声をかけられて無理やり連れてこられたって言うよ。別にいいよね?」
「……暴君め」
南門を抜けて交差点の信号で止まる。陽射しにやられた猫が塀の上で溶けていた。水筒の中に入れた麦茶はあと半分しか残っていない。どこか涼しい場所に行かなければ体が蒸されてしまうだろう。
「……川に行こう。この街は暑すぎる」
「近くにあるの?」
「大体十分で着くよ。夏は花火が見れるスポットだけど、僕は行かないね」
「じゃあそこに行こっか。あとアイス買って」
おねだりを露骨に無視して青になった信号を通り過ぎる。コンビニの横を通ると目で必死にアピールしてきたが取り合う気も無かった。彼女は頬を膨らませて脛を蹴ってきた。
「そういえば図書館って何処にあるか分かる? あとアイス買って」
「県立は隣の市にあるね。市立ならちょっと遠いけど、まあ歩いて行けるよ」
「すごく詳しいね。あとアイス買って」
語尾に「アイス買って」がつくようになったがお小遣いが少ない僕にとっていかにお金を無駄遣いしないかは大事だ。そう、とても。
住宅街を通って少し大きな道路に出る。後は道なりに進めば川に辿り着く。
「何かつまらん道だなあ。こっちから行かない?」
「……目的地と真反対だけど」
「どうせ暇でしょ? 旅してる気分で行こうぜ!」
彼女はバイクのハンドルを回す仕草をして百八十度体の向きを変えた。訳が分からない。気紛れに生きている猫の様に掴み所が無い。
「まあ着いて来なよ。損はさせないからさ」
断るのも面倒臭いので、彼女の後ろをついて行く事にした。さっきより溶けている猫を横目に通り過ぎ、学校を越え、更に向こうへ。太陽が少しづつ沈んで涼しくなってきた。
彼女は振り返らずに先導する。時々会話未満の言葉の応酬をしてすぐに無言になる。出会って半日の浅すぎる人間関係という素麺に元々人と話し慣れていない僕の気質というソースが絡まって気まずさパスタが完成していた。彼女も脳が茹でられたのかさっきより明らかに口数が減り気だるげそうにしていた。
「どこまで行くんだ? 川の事忘れてないか?」
「……そろそろ着くよ。あとアイス二個買って」
影が濃くアスファルトに咲いている。
足が少し痺れてきたので一旦休憩しないかと声をかけようした時、彼女は不意に止まった。
「……ここって?」
「私の五つ目の別荘。そして君の家になる場所だよ」
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