3 説明会と川

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3 説明会と川

「ようこそ私達の家へ! ピザ頼む?」 「要らないよ」  大理石(?)の床で彩られた玄関を抜けてリビングに入る。最初の印象は「材質不明な空間」だった。とにかく透明で綺麗という語彙でしか表現出来ない。長針と短針が曲がっている時計、壁で充電されている四台の白黒ルンバ。天井から吊り下がった硝子(ガラス)のシャンデリア。目がその別世界にまだ慣れていない。苦しい。 「家に入るの断られると思ったんだけどな〜。博打して正解だったよ。昔から運だけは良いんだよね」 「……どうせ断っても、何か適当な弱みでも握ってるんだろう? 本当に嫌になるよ」  彼女は何故か疑問符を浮かべた様な顔をしていたが、すぐに戻して妖艶な笑みを浮かべた。 「ま、そういう事にしといていいか」  育ちの良さは初対面から分かっていたが、まさかここまでだとは正直思わなかった。姫様と呼ばれても違和感は感じない位に立派な豪邸に彼女は住んでいた。少なくとも一人の平均的な人間の生涯年収の三倍がこの家に支払われていて、土地代も含めれば……。考えるのも嫌になる。そして彼女の言葉を信じるなら、ここは五つ目の別荘らしい。この経済的格差には嫉妬すら湧けない。 「……なあ。君はどうして初対面で本性を僕に見せたんだ? 僕が何も言えない愚図だと思ったのか?」 「違うよ。ちょっと焦っちゃって。多分君って人との会話が嫌なタイプだと思ってさ。あの時しかチャンス無いなって何も考えずに賭けたの」  どこまで本音かは分からないがこれが理由だと思う事にする。彼女の弱みを握り返すには情報が足りなすぎる。隙しか無い様に見えて、本心を決して見せはしない。 「あはは、警戒心強いね」 「……初対面で下顎をアッパーされたら誰だって怖がるよ」 「謝って欲しい? うーん無理!」  彼女は冷蔵庫から二本のアイスバーを取り出し、一本は僕に見せるだけでそのまま返却し、もう一本は自分の口の中に入れた。「僕の分は?」なんて聞けば卑しいだの何だの言われそうなのでグッと我慢したが、冷房を入れたばかりの部屋の中には熱が篭っていて水分が欲しかった。 「暑いな。豪邸なのに」  そんな嫌味を心底楽しそうに見てくる彼女に露骨に舌打ちをして、殆ど残っていない水筒の麦茶を最後の一滴まで飲み干した。喉は未だ乾き、張り付く。 「フレグランスの匂いがきついな」 「おー嫌味が止まらないなあ」 「君がもっと分かりやすく何をしたいか説明してくれたら三割引にするよ」 「嫌味言うのは止めないんだ」  くすくすと笑ってシュシュを外す。その一動作に扇情的な物は感じないが、やはり育ちは良い。そのまま床に勢い良く投げ捨てなければ完璧だったが。
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