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花畑と花売り少女
そこはあたり一面花畑だった。店売りできない珍しい花がたくさん咲いている。私がいた地方では咲かない、名前の知らない花もある。あの赤い小さな花、かわいいな。とか、こっちのはピンクで花束を作る時に重宝しそうだな、とか。考えているだけで楽しい。人間がいなくなった今、花は自生しているものだけになってしまった。
もう花束を送る相手もいないのに、そんなことを考えるのは職業病だろうか。アベルさんとタマはその景色を眺めているだけで決して花畑の中には入ってきたりしなかった。私だけがはしゃいでいるようで、少し恥ずかしい。
「春蘭は本当に花が好きなんだね」
「はい! 父から色々教わって」
その父が今ここにいないのは悲しいけれど。いたらきっと大喜びで花の観察をするんだろうな。私は小さい赤い花を選んで必要な分だけ摘み取る。そしてゆっくりと茎を合わせて編み始める。アベルさんとタマは興味深そうに私の手元を見ていた。
「ここをこうして――できた。アベルさん、頭をちょっと下げてください」
「こう?」
その頭に赤い小さな花でできた花冠を乗せる。ふわりと花の香りが鼻をついて、幸せな気持ちになれた。見たところ化け物もいないし、今日はこの花畑で休んでいくのも良さそうだ。
アベルさんは突然被せられた花冠に少し驚いたように口をポカンと開けながら、私を見る。やがて、花冠を把握したのか「似合うかな」と照れたように笑った。私はその言葉に「ええ、とても」と返す。
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