青年と少女

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青年と少女

「アベルさん、アベルさーん」  そんな声に目を開ける。殺気はないのだからもう少し寝かせてくれてもいいのに、彼女は定刻に僕を起こしてくる。  僕はいつでも眠いから、できれば安全な今くらいは寝ておきたいのだけれど。 「春蘭(シュンラン)、おはよう」 「おはようございます、アベルさん。朝食できてますよ。きのみのスープと、昨日取ってくれた魚の一夜干しです」  彼女は料理が好きらしい。僕が取ってきたものをとても美味しく調理してくれる。調理器具や皿は誰もいない店から僕が彼女が必要とするものを盗んできたものだ。  その行為を咎めるものはいない。強いていうなら隣にいた彼女が「まさか盗んでくるなんて」と呆れた表情をしたくらいだ。何故咎めるものがいないのか、それは僕たちが置かれている状況にある。  突如降り注いだ白い光によって、僕と彼女以外の人類がほぼ死滅してしまったからだ。ほぼ死滅、というのは語弊があるかもしれない。もしかしたら僕と彼女以外全滅しているかもしれないし、どこかに生きている人間がいるかもしれない。僕たちは生きている人間を探すために旅をしている。  しかし、今の所、見える範囲では僕と彼女しか生きている人間はいない。その代わり、影の化け物のような動物が現れ僕らを襲うようになった。僕はそんな化け物から彼女を守るために【一輪の花】で雇われた【殺し屋】だ。 f6e9662d-7970-48fa-91d6-190e124034e3
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