あの日の夢

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 彼は私の前にある死体――お父さんの死体を見ると、「知り合い?」と声をかけてきた。その言葉に私は頷く。「もし君が望むのなら埋めるの手伝ってあげるよ」と彼は続けた。 「お父さん、なんです。私を庇って」  彼は少しだけ驚いた表情をした後、「そっか」「ちゃんと弔ってあげなきゃね」と小さく笑みを浮かべた。その時、何故か悲しそうに笑う人だなと思ったことを覚えている。  街を出て、街が一望できる丘にやってきた。お父さんはまだ名前も知らない彼に背負われている。白い髪に赤い瞳の彼は「いいところだね。こんなところがあったなんて知らなかった」と吹き抜ける風に髪を揺らしながら笑った。今度は少し楽しそうだ。 「じゃあ、今から穴を掘るからね」  はい、と私は頷いた。慣れているのか至極手際が良い。あっという間に穴が出来上がって、「じゃあ、埋めるよ」と声がかかった時に「ま、待ってください!」と慌てて声を上げた。彼の手はお父さんに触れようとしたところで止まる。 「私、花売りでして!! 弔いの花を先に入れても良いでしょうか!」  断られたらどうしよう、とかも考えたが、目の前の男の人はふわりと笑って「どうぞ」と穴を私に見せた。
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