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弔いの花を入れる。ああ、本当にこれでお別れなんだ。お父さん、私のたった一人の家族。私を守ってくれた家族。さようなら。
白い髪に赤い瞳をした男の人は花の中にお父さんの死体を入れる。花の中で、お父さんはどこか幸せそうに笑っているように見えた。
「じゃあ、埋めるからね」
「はい」
手際よく、穴が埋まっていく。その時、彼の手がぴたりと止まった。今となってはすぐにわかる。私たちの背後に迫っていた影の獣の気配に気付いたのだろう。
獣は唸りをあげて一番近い私に一直線に向かってきた。速い。足がすくんで逃げられない。もうダメだと思って目を閉じる。だが、いつまで経っても痛みはやってこなかった。
恐る恐る目を開く。そこには獣の牙と爪を体で受け止めている先ほどの青年の姿があった。私は驚いて二、三歩下がる。彼は倒れることもなく、ただ私の瞳を見て安心したように笑った。
「大丈夫?」
「あ、あなたのほうこそ、なんで、なんで私を庇って――」
「ああ、そうだ……あの、この赤い花、僕に頂戴?」
「今それどころじゃないです!! 怪我が――」
彼が手に取ったのは赤いヒガンバナだった。さっき花を入れた時に近くに落ちたのかもしれない。私の声が聞こえていないのか、相当な天然なのか、その両方なのかもうわからない。
「あ、あげます! その花あげますよ!」
「ありがとう。じゃあこの花に誓って君を守るよ」
へ、と間抜けな声が出る。その瞬間、彼は獣を後ろへと投げ飛ばし目にも止まらぬ早さで駆け出し、その獣の体に大きなナイフを刺す。何度も、何度も。ソレが息絶えるまで。
黒い血がその度に彼の体に付着する。その中で光る赤い瞳が、今まで見たどんな瞳より綺麗に見えた。
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