あの日の夢

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「手当しますから服を脱いでください!!」 「ええ? 大丈夫だよこれくらい」 「手当しますから服を脱いでください!!」  この時の私は頑なだった。誰がなんと言おうとこの人の傷の手当てをする。何故なら彼が傷を負ったのは私のせいだからである。肩に牙の傷、右腕には爪で引き裂かれたような傷。どちらも痛そうだ。  まずはアルコールで傷口の消毒。「少し染みるかもしれません」という私の声に完全に根負けしたのか「もうどうにでもしていいよ」と彼は呆れたように笑みを浮かべた。  驚くことに、アルコールをつけても彼は声ひとつあげなかった。先ほどもそうだったがどうやら彼は痛みに慣れているらしい。ガーゼを当てて包帯を巻いていく。  服はすごく汚れていたので川で洗うことにした。まるでゴミ溜めにでも寝てたような汚さだ。匂いもちょっと臭い。  今日の傷じゃない傷も身体中にたくさんついていた。まるで日常的に戦っているみたいに。  それにしても、あんな化け物見たことがない。影の化け物。なんなんだろう、アレ。彼は知っているのだろうか。そ、そういえば私彼の名前を知らない。 「あ、あの。私は春蘭って言います。貴方は?」 「僕はアベル」  アベルさん。聞き慣れない響きのお名前だ。きちんと覚えておかないと。 「アベルさんですね」 「うん。春蘭、この花僕が持っててもいい?」 「そのままだとすぐ枯れちゃいますけど」 「それでもいいんだ、契約の証」  契約。契約? そういえば私を守るとかなんとか言っていたような。本当にいいのだろうか。 夢は、そこで唐突に終わった。
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