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タマさんが案内してくれたのは宿屋の一部屋だった。ここだけは妙に片付いており、ベッドもふかふかでよく眠れそうだ。一人用の部屋ということを除けば、だが。
私は魚の干物を一枚タマさんの前に置く。宿屋まで案内してくれたお礼だ。タマさんはその匂いをクンクンと嗅いでいたが、やがて食べ物だと認識したのか口を開けてハグハグと食べ始めた。
どうやら喋る以外は普通の猫とそう変わらないらしい。私はアベルさんと自分の分の燻製肉と、保存がきくビスケットを準備する。
「今日はこのあまり美味しくないビスケットかあ」
「まあ、これが一番たくさんあって保存が効くので……燻製肉の方は美味しくできているので我慢しましょう」
肉はもちろんあの影の化け物の肉だけれど。その様子を見ていたタマさんは「こうして人間と食事をとるのはあの日以来だ」とどこか遠い目をしながら呟いた。
「私たちも、こうして他の生き物と一緒にご飯を食べるのはあの日以来です」
私はそう返すと「いただきます」と言ってビスケットを一口齧る。アベルさんのいう通り、あまり美味しくないビスケットだ。味はあまりしないし、食感はもさもさしているし。でもよく噛むからかお腹は膨れる。そんな一品だ。
タマさんはそんな食事をする私たちを見ながら食後の毛繕いをする。黒い毛並みはツヤツヤで、撫でたい衝動に駆られるのをグッと我慢する。
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