夜の街と黒い猫

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 はあはあと息が荒くなった頃。私は街の商店街のところまで走ってきてしまったらしい。この世界で夜に出歩くのは危険だ。それでも、あの場所にいたらもしかしたら泣き喚いていたかもしれない。そんな醜態を見せずに済んだ。それだけで今ここにいる意味はある。  夜風は少し肌寒く、空に浮かぶ月と星が綺麗だ。私は生きている。肌寒さがそれを証明していた。  星と月が、闇に隠れた。なんだろうと思って上を見上げる。そこには黒い巨大なずんぐりとした体躯の化け物がいた。目は白い穴のようで、私を見据えてにんまりと笑う。  走り出す私と、そいつが動くのは同時だった。大きな手に体を掴まれ、持ち上げられる。ギシギシと自分の骨が軋む音と鈍い痛みが身体中を襲う。なんとかしなきゃ。自分一人でもなんとかしなきゃ。私がいなくなったらアベルさんが一人になってしまうから。 「や……、ぁあっ……!!」  痛みに耐えられず声を上げる。その時だった。銀色の閃光が私をもたげている腕を切り落とした。気づいた時には私はアベルさんの腕に抱かれていて。 「春蘭、痛いよね、今すぐ片付けて手当するから」  今すぐ片付ける? あんな大きな、初めて見た化け物を? いくらアベルさんが強くたってこんな体格差――。  黒の化け物は切り落とされた腕に動揺しているようで、しばらく呆然としていた。その隙をついてアベルさんはナイフでその胴を切り裂く。化け物はどっ、と音を立てて倒れ、アベルさんはその上に乗ってその右目にナイフを突き刺した。たった3撃で倒してしまった。あの化け物を。  いつの間にか私の隣にいたタマさんも呆然とその光景を見ていた。アベルさんが黒い血をはらってからこちらに歩いてくる。すると倒したはずの化け物の左手が動き、まるで槌のように変形しアベルさんに振り下ろされた。 「アベルさん! アベルさんっ!! 嫌ぁっ!!」  駆け出そうとする私を、タマさんが服を噛んで引き止める。アベルさんは倒れてはいなかった。ただ、槌の攻撃を受けて立ち止まっているだけ。黒い化け物の方を見ているのでその表情はわからないが、黒い化け物の方が一歩後退る。  次の瞬間、その左腕が一本のナイフにより斬り落とされた。アベルさんはそのままこちらを向き、私の方に歩いてくる。 「春蘭、遅くなってごめん」 「アベルさん!! ごめんなさい私のせいで怪我を!!」 「春蘭も怪我してるでしょ。骨とか折れてない?」  アベルさんはいつも私の心配をする。タマさんはアベルの肩に上り、「こやつの怪我なら大したことないわい。よっぽど体が丈夫なんじゃろ」とアベルさんの肩をペシペシと叩く。 「そういうこと。僕は春蘭の方が心配だよ」  確かに私の体は先ほどからギシギシ悲鳴をあげている。動かせるから骨は折れていないだろうけれど。  結局私はアベルさんに担がれて宿屋へ戻ることになった。情けない、が。あんな化け物、初めて見た。あんなに大きいのもいるんだ。
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