青年と少女

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 【殺し屋】というのは肩書だけのものではなく、元々僕は依頼人の命令で人を殺す殺し屋をしていた。そんな夜に身を溶かす血生臭い世界で生きてきたせいか、どうにもお天道様の下は居心地があまり良くない。  まあ今は殺す対象も、そんな依頼をしてくる依頼人もいないのだけれど。 「「いただきます」」  魚の一夜干しを箸でつつく。上手くほぐれずちょんちょんしていると、彼女はくすくす笑って「こうすると良いですよ」と骨を先に取ってから身をほぐしてくれた。なるほど、そうやって食べるのか。  文字通り泥水を啜って生きてきた僕と、まるでひだまりのような彼女。とてつもなく不釣り合いだが、何故か彼女は嫌がらず僕のそばにいてくれる。くすくすと笑いながら。 「このきのみのスープ美味しいね。少し甘め? あんまり飲んだことない味だ」 「私も初めて食べたんですけど、意外と美味しいですね」  春蘭はいつもニコニコ笑っている。出会った時は少し悲しそうな顔をしていることが多かったが、この頃は笑っていることが増えた。彼女には笑顔が似合う。僕はこの赤い花一輪でこの少女の笑顔を守ると決めた。
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