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上着を脱がされ、痛いところをアベルさんが手当してくれる。いつもと逆だ。こういう部分では彼は不器用だけれど、一応手当はそれらしくなった。
「アベルさん、ありがとう」
「礼ならタマに言ってあげてよ。タマがこの町には夜になると巨大な怪物が出るって教えてくれたんだ」
「タマさん……ありがとうございます」
「何、当然のことをしたまでじゃ。春蘭には夕食ももらったでな」
当然じゃ、当然。とタマさんは笑う。
「タマさんは――この町に一人で、寂しくないんですか」
「寂しくないと言ったら嘘になる。……なんじゃ、連れてってくれたりするのか?」
「そのつもりでした。私も一人のときはとても寂しかったですから」
自分の周りに誰もいなくなった時込み上げてきた寂しさは、きっとこの町に一人で住むタマさんも同じだろう。
「わしの家族ははな、白き光の後でも生きておった。無論猫であるから対象から外れていたのだろう。しかし、わしが食料を取っている間にあの黒く巨大な化け物に全員喰われてしもうた」
仇をとってくれて感謝する、とタマさんはアベルさんと私に頭を下げる。あの化け物が、タマさんの家族を……。
「僕は春蘭が襲われてたから殺しただけだよ」
「それでも、仇をとってくれたことには変わりない」
「もし本当についていっていいのであれば恩返しをしたい。わしができることといえば化け物の探知くらいだが。それに、わしもまだ見ぬ人がいるのであれば会いに行きたい」
その言葉に、私とアベルさんは頷く。こうして、私たちの旅に一匹の仲間が増えた。喋る黒い猫のタマさん。可愛い仲間だ。
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