アベルという男

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アベルという男

 ここ数日一緒にいてわかったことがある。アベルという男についてだ。彼奴は春蘭にしか興味がない。春蘭がピンチになれば彼女を助けるし、春蘭の言うことはなんでも聞く。春蘭の作るものはなんでも食べる。例えそれがどんなに口に合わないようなものであっても。  基本的には柔和で優しい男を演じているが、それはおそらく春蘭の前だけであろう。春蘭は知らないだろうが、わしは知っている。匂いの判断になるが、この男は人を何人も殺している殺し屋だ。命を奪うことになんの抵抗も躊躇いもない。  そんな男がにこにこと少女の言うことに従い、その少女を守っている。少し信じられない部分ではあるが、これは事実である。  まるで少女に付き従う猟犬のようだ。わしの家族の仇も取ってもらった手前、あまり悪いことは言いたくないが何か企んでいるのだろうか。企んでいるのであればわしはこの男から春蘭を守らねばならぬ。
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