アベルという男

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 アベルはよく寝ている。戦闘時の体力を温存しているのか、単純に寝太郎なのかわからないが、よく、寝ている。戦闘時はあんなにも俊敏なのに、この時だけは無防備にうつ伏せ寝で眠るのだ。うつ伏せ寝では息が吸えるのか怪しいところだが、くうくうと寝息を立てているところを見ればきちんと眠れているのだろう。  そして必ず定刻――朝7時になると春蘭に起こされるのだ。ゆさゆさ揺らされて、少しだけ不機嫌そうな表情でゆっくりと仰向けになり「おはよう、春蘭、タマ」とわしにも声をかけてくれる。この行動を見る限り、一応わしは奴の仲間と認識されているらしい。  珍しい白銀の髪に、祝福の子の証である赤い目を持つ男。今日はわしに採れたての魚を分けてくれた。魚を取るのはアベルの仕事だ。これがなかなか上手で、目標の3匹では飽き足らず6匹も取ってくることがある。春蘭はそれを干物にして保存食にしているようだ。
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