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君がいるから
夜。アベルさんの手当てをする。今日の怪我――右腕の傷は酷く、肉が裂け骨が見えてしまっていた。
影の獣は突然現れて私たちを襲う。彼らにとって私たちは明らかに獲物であり、私たちにとっても彼らは敵である。
「もう、無茶しないでください」
「無茶はしてないよ」
「噛みつかれながら喉にナイフを突き刺すなんて無茶苦茶です」
「あー、そうかな?」
「そうなんです!」
私に彼らに対抗する力はなくて。
それができるのは目の前の彼――アベルさん一人だけ。私は彼に守られているだけの存在だ。
影の獣が出現すると、私は途端に足手纏いになる。タマと出会った時なんか殺されかけたし、今でもあの経験は怖い。トラウマだ。それでも、アベルさんは勇敢に影の化け物に立ち向かっていく。的確にその弱点を狙う、まるで狩人だ。彼が狩人なら、私はただの村人で。なんの力もない、ただの人で。
「すみません、私のせいで」
「? どうしてそんなことを言うの?」
「私のせいで、アベルさんがたくさん怪我を――私なんかがいなければもっと簡単に倒せるのに」
そんな気持ちを吐露する。アベルさんは少しだけ驚いた様な表情を浮かべていたが、少しだけ息を吐いて「なんだ、そんなこと」と小さく笑った。
「そんなこと!?」
私にとっては真剣な問題だ。実際にアベルさんの怪我も増えているし、私一人守らなければもっと簡単に勝てるはずで。
「ああごめん、言い方が悪かったね。でもね春蘭。僕は君がいるから今こうやって生きてられるんだ」
「え……?」
黒い空の下、彼は手当をされながらそんなふうに呟いた。タマは耳を立てて目を閉じそれを聞いている。
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