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「アベルさん、アベルさーん」
ゆさゆさと彼の名前を呼びながら体を揺する。綺麗な真っ白の髪に、じと、と少し不機嫌そうに私を見る目。寝起きはいつもそうだ。どうやら彼は眠りを邪魔されるのがあまり好きではないらしい。いや、みんなそうかもしれないが。私は自分で起きれるのでそんな風に感じたことはなかった。
私の腕時計は9時を指している。いつもより2時間も多めに寝かせてあげたので、もう少しスムーズに起きて欲しい。
「ああ、おはよう春蘭」
「おはようございます、アベルさん。今日は歩く日ですよ」
川でよく冷やした水筒を彼の顔にあてると、彼は少しだけビクッと体を震わせた後「冷たいね、ありがとう」と笑った。その笑顔は彼の見せる表情の中で私が一番好きな表情だ。
「朝ごはん、できてますからね。一緒に食べましょう」
今日の朝ごはんは昨日倒した黒い化け物の肉のあまりと、たくさん取ってあったきのみのスープだ。これだけでは栄養が足りないのは承知の上なのだけれど、彼は喜んで食べてくれる。
化け物の肉も最初は少し抵抗があったが、今では貴重なタンパク源だ。それに、脂身が少なくて食べやすく、意外と美味しい。
「今日のご飯も美味しいね」
「それはよかったです」
アベルさんもどうやら喜んでくれているようだ。
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