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歩く、歩く。日はまだ高い。アベルさんはいつものように涼しげな表情で私の隣を歩く。既にリュックは彼の肩だ。もっと体力をつけなくちゃ。これ以上アベルさんに迷惑をかけないように。
「大丈夫? 少し休憩しようか?」
「だ、大丈夫です! 早くしないと日が沈んでしまいます!」
「まだ沈まないよ、大丈夫。僕は春蘭が倒れないかの方が心配だよ」
そう言われると弱い。それに、確かにもう足がフラフラしている。彼はそれを見抜いているのだろう。だからこその提案だろうということもわかっている。
「春蘭は頑張りすぎちゃうところがあるから」
『春蘭、お前は頑張りすぎるところがある、少しは誰かを頼れってんだ』
アベルさんの声にお父さんの声が重なる。それは昔お父さんに言われた言葉だった。アベルさんは優しい。その提案に、私は頷くことしかできなかった。
「春蘭は水飲んで。疲れていたら寝てていいよ。その間僕が見ているから」
アベルさんは強い人だ。身体的にも、精神的にも。私なんかより、ずっとずっと強い人だ。でも、彼ばかりに頼っていて本当に良いのだろうか。私は水を飲んで横になりながらゆっくり考える。桃色の水筒がまだ冷たい。きっとアベルさんはいい水筒を盗ってきてくれたのだろう。
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