その契約結婚じゃ、私は幸せになれない

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『だからさ、結婚はできないんだって。親に会うとかいう話も全部無理。わかってよ』 電話の向こうでどこか陽気に話す男の声は、38度を超える炎天下の中、立ちすくむ私の耳を突き刺した。 ーーああ、あれか。私はいま、振られているのか。 婚活アプリで出会った6歳年上の男に。 いや、出会ったときは私よりみっつ上だと嘘をついていた最低な男に。 やっぱり最初から嘘をつく奴にロクな男はいない。 貴重な20代を、私はまたこんなくだらない男に奪われてしまうのか。 いや、まだ付き合って一年だ。 正確には11ヵ月強。 付き合って一年記念日に、私はこのクズ男にプロポーズされる予定だった。 だけどそんな予定はいま、焼けるようなアスファルトの上で崩れ去った。 電話の向こうでは、あの男がまだなにか言っているが、もはや私の耳には届かない。 『結婚できない』 その事実だけが、私の膨れ上がった願望を粉々に打ち砕く。 そして、出会いから別れまでの究極に無駄な時間を思い出して、洪水のように全身からなにかが溢れ始めた。
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