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#3.残された道は
「おい、大丈夫か?」
電柱のそばに崩れ落ちた湊に、恐るおそる声をかける航平。
けれど湊は返事をするどころか、仰向けで目を開いたまま無言。航平は湊の呼吸や鼓動をたしかめる。けれど、停止したままふたたび動き出す気配はない。
航平は仰向けのままの湊を必死で揺さぶりながら名前を呼ぶ。それでも湊は身動きひとつしない。ただの物体のように。
航平の胸に恐怖が押し寄せる。このまま俺は殺人者として一生、生きていかないといけない。なら、俺も責任をとって……。思い詰めた航平の頭に、どこかで首を吊って身動きしない自分の姿が浮かぶ。
その途端、航平は頭を強く振る。そんなこと恐ろしくてできるわけがない自分にすぐに気づく。残された道は……。逃げるしかない。逃げるってどこへ? あてはない。でも、ここから逃げるしかない。
地面の上で動かなくなった湊を置き去りにして、その場を離れ、闇雲に走りはじめる航平。けれどすぐ、行く手に警察が現れる。
「諦めなさい。逃げられるわけないだろう」
航平はたちまち警察に捕まり、後ろ手に手錠をされてしまう。
航平のまわりには警察官だけじゃなく、騒ぎを聞いて駆けつけた野次馬たちの姿。近所の人々や下校中の中学生や高校生たちだ。
「!」
その瞬間、両腕を抱えられたまま連行される航平の目に映ったのは、野次馬の中にいる心菜の姿だった。
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