#5.誰もが重苦しく、にがにがしい表情で

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#5.誰もが重苦しく、にがにがしい表情で

 そんなやりとりを聞いていた別の監視官が挙手する。こちらは七十代の老人として人間社会で生きるアンドロイド。 「われわれ監視官もみんなアンドロイドだ。人間社会で生きるアンドロイドを監視するための。われわれ監視官も普段は人間として暮らしながら、同じく人間社会で生きるアンドロイドを監視するのが主な任務だ」  老人型監視官の言葉に心菜がうなずいた。 「君だって監視官だろう? 人間の中学生として人間社会に紛れて暮らしながら、他のアンドロイドを監視するのが任務のアンドロイドだ。なら、二人があんな事態を引き起こすまでに何かできなかったのか?」 「おっしゃるとおりです。私もまたみなさんと同じように、アンドロイドを監視する監視官アンドロイドです。人間の中学生型の。だから、この二人をずっと監視はしてましたが、今回のことは予想外かつ展開が急で……」  心菜の説明に監視官たちの間から大きなため息が盛れた。そのとき、他の監視官が声を上げる。 「人間の男子中学生のあいだに紛れ込ませたアンドロイドが、色恋沙汰から二台ともあんな事態を起こしたことを、われわれは重く考える必要がありそうだ。  なぜなら人間の思考や感情を反映させた人工知能が引き起こした事態なんだから。中学生の段階でそんなに危険な行為を引き起こすのなら、大人に成長したらどうなる?」  そんな言葉に、他の監視官たちも同意の声を上げる。誰もが重苦しく、にがにがしい表情で。
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