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翌日、俺と窪田さん、高梨さんと早乙女さん、その娘さんが〈茶座〉に集まった。
「この度は母が勝手なことをしてしまって申し訳ありませんでした」
頭を下げる娘さんに続いて早乙女さんも頭を下げた。そしてそれに続くように頭を下げたのは高梨さん。
「いえ、こちらこそ、過剰なアラートで早乙女さんもご家族も不安にさせてしまいました。人間ですから、その日の体調、気温や睡眠状態など色々な要因で数値は多少上下します。その配慮が足りていませんでした。そんなものはAIが自分で学習して補正していけば良い、そういう技術者側の甘えもありました。その間ユーザーに不安を与え続けるということも考えずに。申し訳ありません」
お互いの謝罪が終わった所で、俺は口を開いた。
「あの、娘さんにお聞きしたかったんですけど、早乙女さん……お母様のちょっとした体調の変化に敏感に反応されていたのには理由があるんでしょうか。お母様は、体調不良を理由に施設に入れられるんじゃないかと思っていたそうですが」
本当は早乙女さんから直接聞くのがいいんだろうけど、うまく聞く自信がないからと直前に早乙女さんにお願いされていた。
「まさか。むしろ逆です。少しでも長くあの家で過ごしてほしくて、健康でいてもらうために厳しくチェックしていたんです。私、父が亡くなった時仕事で海外にいて、連絡もまともに受け取れず戻った時には葬儀も終わった後でした。それをずっと後悔していて、母に何かあったら真っ先に駆けつける、そう決めたんです。だから……」
泣きそうな娘さんを抱きしめたのは早乙女さん、お母さんだった。
「もう……それならそうと早く言ってよ。てっきり私、あの家に居ちゃいけないのかと思ってたから」
「あの家はお父さんとの思い出が詰まった大切な場所でしょ。私にとっても大切な場所なんだよ……」
母娘のわだかまりは解消したようだ。これで残りの試用期間も問題なく使ってもらえそうだ、高梨さんの判断もあってそのまま話し合いは終了した。
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