プロローグ

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プロローグ

「待て! 逃げんなよ!」  背後から声が聞こえる。だが俺は、止まることなく廊下を全力疾走していた。何処に逃げれば良いのか正直解らなかったけれど、下半身丸出しで、人の目が気になり過ぎたけど。 「無理、無理、無理ぃ!!」  半泣きになりながら寮の廊下を走り続ける。俺の部屋は栗原の部屋の隣で、今逃げてもどうせ捕まるような気はしたけれど、それでも逃げるしかなかった。だって、無理なんだもん。  走る俺を怪訝な顔で、寮生が見送る。フルチンで走る半裸の男と、それを追いかける男。どう考えても、様子がおかしい。解ってる。  チラと後ろを見ると、鬼の形相で走る栗原の姿があった。思わずビクリと肩を揺らし、「ひええええ」と口から悲鳴がこぼれる。普段はあんな顔しないのに。どちらかと言えば穏やかな青年で、俺を慕ってくれる優しい後輩なのに。 (どうしてこうなった!?)  何故こうなったのか、考えても解らない。アレが悪かったのか、それともアレが悪いのか。思い返せば常に迷惑を掛けがちなので、何が悪かったのかさっぱり分からない。もしかして全部悪いの?  とにかく、興奮している栗原から逃げようと、必死になって走り続ける。足が速い方じゃないはずだが、なんとか追いつかれずに済んでいる。俺って、やれば出来るタイプだったのかも。  だが、寮内を走っている以上、いずれはどこかで行き止まりにぶつかるものだ。目の前に倉庫の扉があるのを見て、鍵が開いていることを願ったが、とっさに回したドアノブはガチャガチャいうだけで開くことはなかった。 「うわああああっ!」  絶体絶命。大ピンチである。 「うらあっ!」  ダン! 壁に追い込まれ、一気に距離を詰められる。壁ドンである。ただし腕ではなく、足を壁で蹴り上げ、行く手を阻んでいた。世界一恐怖心をあおる壁ドンである。 「ぜぇ、ぜぇ……、逃げないで、くださいよ……先輩」 「や……」  息を荒らげながら、栗原がそう言う。 「やだあぁぁ! 無理無理無理! 出来ないって!」 「やる前から決めないでよ。鈴木先輩が好きなBL漫画ではやってるでしょ」 「それは、ファンタジーだからだよ!」 「んなわけあるか」  ぐい、と腕を引かれ、唇に噛みつかれる。 「んぐっ」  抵抗しようにも、びくともしない。舌を絡め取られ、何度も唇を吸われた。ここ、廊下なんですけど。俺、下半身裸なんですけど。 「んぁ、んっ……栗原っ……」  ハァ、と息を吐き、涙目で栗原を見上げる。栗原は目の下に朱を走らせて、獰猛な獣みたいな顔で俺を見た。きゅん、と心臓が鳴る。 (顔が良いっ……)  くそう。こんなんされてるのに、顔の良さに全部許してしまいそうだ。  栗原は俺の肩を掴んで、ニッコリと笑う。 「じゃ、続きしましょうか」 「う」  言葉を詰まらせて涙目になる俺に、栗原は俺の脇腹をつかんで、ヒョイと抱えてしまう。 「わーっ! 離せーっ」 「良いから、観念してください」 「ぎゃーっ」  おかしい。おかしいよ。  俺ってば壁際属性男子なのに。モブ男子なのに。地味メンなのに。  何故なのか、イケメンの後輩に、尻を狙われてます。  どうしてこうなった――!?
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