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懐かしさの正体
「石棺が開けば時は流れ出します。16の歳で私が石棺に入った時、蓋は開かれ母の命はそこで終えました」
「何故!? そのままにしておけばあなたが結界守りになる必要もなかったのに!」
「それでは有事に鬼の邪気を浄める者が居なくなってしまいます」
「どうして……あなたがそこまでするのです?」
「それが私の役目ですから」
命様は目に優しい笑みをたたえた。
「鬼の邪気を浄化し続ければ、私も2年ほどで命を落とすかもしれません。私には時間がないのです。体が動くうちに、次の結界守を産まねばなりません。それ故にお渡りを急かすような真似をいたしましたこと、何卒ご容赦くださいませ」
「そんな……」
倭は握った拳に力を込めた。
「我々が鬼を斬るたびに、あなたの寿命が削られるということなんですよね!?」
「お館様がお気にとめることではございません。結界守は浄めを担う者にございます」
「できない……そんなこと……」
「お館様の役割は鬼を斬ること。おつとめは果たさねばなりませぬ」
「そんなの、あなたをこの手で殺すようなものじゃないですか!!」
倭は立ち上がって命様の正面に回り込んだ。
「やっと……やっと会えたのに」
命様は花のような笑顔で倭に手を差し伸べた。戸惑いながらも倭はその白い手を取る。繋がった手をそっと引き寄せ、命様は幼子をあやすように倭の耳に囁いた。
「覚えておいでだったとは……大きゅうなられましたなぁ」
母に抱かれる幼子のように、倭は命様の胸に顔を埋めた。
「石棺が開いたとき、懐かしさを覚えたのです。あれからずっとなぜなのかと考えていましたが、今宵あなたの神力を間近に感じて思い出しました。
あの頃の俺にとって、あなたは生きる糧だった」
倭は本家に連れてこられた幼少期に思いを馳せて目を閉じた。
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