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厳しい修行
倭が本家に迎えられたのはまだ3つの頃だった。並々ならぬ神力を宿した倭に、先代当主は厳しかった。
「およそ200年もの間、鬼どもはなりを潜めている。お前がこれほどの神力を持って現世に現れたことこそ、大きな厄災の前触れにほかならぬ。力をつけよ倭! 誰にも負けぬ力を!」
そう言って先代が行う厳しい修行に、幼い倭の心と体はついていけなかった。
倭は逃げた。しかし結界の張られたこの屋敷からはどうあがいても出ることができなかった。
逃げては息ができぬほど打たれ、また逃げる。先代から逃げ回るうち、倭は東対の離れにある大きな蔵にたどり着いた。
ひんやりとした石壁に打たれた頬を押し付けると痛みが少し和らぐ気がした。
石壁に手を当て進むうち、空気取りの穴を塞ぐ金網が錆びて外れかけている箇所を見つけた。
(ここなら見つからないかも!)
倭は小さな体で排気口から蔵の中へと潜り込んだ。
蔵の中は真っ暗だった。自分の手すら見えない暗闇に倭は怯えるどころか安心感を覚えた。
まるで安全な母の腹の中に戻ったかのような感覚。倭は手探りで暗闇の中を泳ぐように進む。
不意に段差に躓いた倭は、とっさに半身を返して座り込んだ。
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