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幼き日の出会い
トクントクンと自分の心臓の音を感じながら、倭は背中にあたった大きな石に触れた。
「あったかい……」
外の石壁は冷たかったが、暗闇の中に見つけた石壁からは何故か人の体温のようなぬくもりを感じた。
「お母さん……」
倭はじっと両手を当ててそのぬくもりを手のひらから吸い上げた。
その時、倭は凍てつく夜に差し込む眩しい朝日のような波動を感じた。優しいその波動は倭の体を包み込み、傷を癒やした。
倭はそれからしばしば辛い時、苦しい時この蔵へとやってきてはつるりとした石のぬくもりに癒やされた。
今なら分かる。幼い倭が忍び込んでいたのは石棺の間であったこと。
幼い倭の傷を癒やしたのは浄めの姫、命様の神力であったこと。
「あなたがいなければ幼い頃の俺はこの家で生き残れなかった」
倭が告白すれば、命様は微笑んだ。
「石棺の中から外の様子は見えずとも、お館様の気配はしかと感じ取っておりました。傷つきながらも決して消えない真っ赤に燃える炎のようなお心に、私も孤独なこの身を温めてもらっておりました」
命様は倭の頬に白い指をそっと添わせた。
「私はお館様と直に触れ合えるこの日を、ずっと心待ちにしておりました」
「こうして出会えたからこそ俺は……あなたを失うのが怖いのです」
倭は泣きそうな子供のように声を震わせた。
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